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移住計画

作者: 村田 海広

 暑い。とにかく暑い。

 高校からの帰り道、コンビニで買ったアイスを食べながら、駅前広場の巨大スクリーンを見つめる。

 画面には、もうすぐ地球に衝突する巨大隕石についての映像が流れている。

「これ、もうすぐ激突すんだっけ。朔太郎(さくたろう)、知ってる?」

「あー、確か、今月中なんだよな。ま、フツーの学生には関係ない話だよ。それよりも、アキちゃんとこないだ行ったホーリーランドの画像見たか?めっちゃ可愛くない?(よう)、聞いてんのか?ホラ!ここ!この笑顔がさ……」

 友人の朔太郎は、隕石よりも彼女に夢中で溶けかけのアイスに気付いていない。

「こら、そこの少年2名!登校組の生徒だね?保護者がいない場合の食品の購入は、禁止されているはずだろう。ご両親に連絡するから、腕の認証コードを出しなさい!」

「やっべ、警官だ」

「まずいな……」

 2117年、面倒なことに、どの人間も生まれてすぐ腕に認証コードと呼ばれる端末を腕にプリントされる。このコードが凄く便利で、ネットも出来るし、電話やメール、映像なども好きなように出せる。

「聞いてるのか、腕を出しなさい!」

面倒なことになった。ちょっとでも規則から外れると、コードですぐ親に伝わってしまうのが痛い。

 俺たちがしぶしぶ腕を出すと、コードリーダーでさっとコードを転送された。

「君たち、もしや……」

「どうかしたんすか」

「てか、彼女に会いたいんで早く帰らしてください!」

朔太郎が、空気を読まずにバカなことを言いだすと、警察官の表情が険しくなった。やばい。

「君たち、例の船の搭乗者に選ばれてるよ。

地球で使えるコードが無効になってる」

俺たちが、選ばれた?例の船……?

わけがわからないまま、俺たちは家に向かった。

 

 家に着くと、高級そうな車が玄関前に1台停まっている。少し妙だ。家は、普通の家庭だしこんな車には縁がないはずだ。恐る恐るドアを開けると、両親が笑顔で現れた。

「葉!おめでとう、よかったな……親として誇りに思うよ。なあ、母さん」

「ええ、お父さん。なんたって、例の船の代表ですものね!」

 はしゃぐ両親とは裏腹に、車の持ち主と思われる人物が来客用の椅子に暗い表情で座っている。昔の映像で見た「探偵」に似ていた。少し長めの黒いコートに、帽子という姿。男が、俺を見てゆっくり口を開いた。

 「坊ちゃん、私は、人類移住計画に携わっている政府の者です。ネットやニュースで騒がれている通り、巨大隕石がもう少しで地球に激突します。生態サイクル循環システムを搭載した巨大宇宙船団での外宇宙への亡命計画が進んでおり、坊ちゃん……松岡葉さんのみ、搭乗者として選ばれました。つい先ほどの話です」

さっき、警官が言っていたのはこのことだったらしい。

「ちょっと、待ってくださいよ。葉だけが選ばれたんですか?」

「ええ……非常に残念ですが、ご両親は含まれておりません。地球上の各国から、200万人ずつ選ばれます。若者のみね」

両親は、急に肩を落とし、俺に背を向けてコードで船のことを検索し始めた。家には、テレビが無いので(ネットで充分だから)両親が夢中でネットサーフィンするのは良くある。

「ああ……確かに、そうですね……」

父は、目に涙を浮かべている。よほどその船に乗りたかったようだ。

「お父さん、せっかく葉だけでも選ばれたんだから……」

母さんも、今にも泣きだしそうな雰囲気である。

「坊ちゃん、明日、学校から正式な発表があるでしょう。私が言えるのはここまで。では」

男は、そう言うと車に警備ロボットを乗せて行ってしまった。家では、両親が泣きながら夕飯をやけ食いしていた。


 翌朝、学校に着くと学校の先生全員がクラスに集まり、ニコニコして立っていた。もしかすると、昨日の話だろうか?

 「おはよ、葉」

「おはよ。何だよ、元気すげーないじゃん。アキちゃんに振られたか? 」

「もっと最悪かも……」

隣の席で、朔太郎が頭を抱えた。いつもハイテンションなので、こういう姿は珍しい。

 「えー、朝会前だが、大変嬉しい知らせがある。巨大隕石がもうすぐ地球に激突することは知っているな?ネットやニュースでは、隕石を破戒する計画とか言っているが、あれは全くの嘘だ。隕石は非常に巨大で、破壊できる大きさではない。確実に激突し、我々人類は皆滅びるだろう。そこで、政府が秘密裏に人類移住計画をスタートさせた。各国から200万人の若者が選ばれることになった。我が国、日本からは登校組の君たちが選ばれることになった!全国の登校組から150万人、残り50万人は、優秀な自宅学習組から選ばれる。まさか、我が校が選ばれるとは……」

 先生たちは感動しているようだが、俺や他の生徒を見ると、とても嬉しそうには見えなかった。それに、我が校と言うが、ここは元々、図書館だ。


 俺の住む地域は特に子供が少なく、全校で34人。先生は8人しかいない。子供が少なくなり、学校は解体され、ロボット製作所が作られるようになり、学校を無くしたのが50年前。

 学校という建物は無くなったが、子供をどうしても学校に入れたいという親と教師の希望で、図書館を学校として使うようになった。

図書館の司書はすぐに辞めさせられ、ロボットが配置された。教師も、ロボットが代わる予定だったが、教師たちが団結して、人間は教師として、図書館の管理はロボット、ということで落ち着いた。

 一方で、自宅で勉強し、社会に出るまでは家族としか関わらない「自宅学習組」も多い。というか、「登校組」のほうが少ないのだが。

 「自宅学習組」は、ネット配信授業で勉強をする。授業についていけなければ、それをコードで伝え、じっくり教えてもらえる。俺たちよりも成績の良い生徒が多いらしい。会ったことないから、ネット情報だけど。

 「葉、おい、聞いてるか?」

「全然。何?」

「あのさ……アキちゃんの学校、選ばれなかったって。船に。オレとアキちゃん、離れ離れになっちまう」

「マジで?選ばれないとかあんの」

「抽選なんだってよ。お前、先生の話聞いてねーだろ。はー、マジかよ、神様……」

このネット社会で、神様も何もないと思うが、選ばれたのが抽選だったとは驚きだ。適当すぎる。

 「ということで、君たちは今日から準備期間だ。船への搭乗は1週間後。忘れずに準備するんだぞー!プリントに書いてあるもの、必ず持っていくように。明日からは、船でのマナーを学んでもらうからな!今日はこれで解散!寄り道せずに帰るんだぞ」

 帰り道、朔太郎が泣きながら後ろをついてくるので、恥ずかしくてしょうがなかった。

「おい、電車来たぞ。乗らねーのかよ」

「もう、生きていく気力が無いんだよ……ああ、アキちゃん……」

「はい」

後ろから、可愛らしい声が聞こえた。振り向くと、朔太郎から送られてきた写真で見たアキちゃんだった。

「朔ちゃん、泣き虫だから心配で来ちゃった。大丈夫?制服、涙のあと凄いけど」

全然大丈夫ではなかったのだが、アキちゃんと遭遇したことで一瞬で元通りの朔太郎になった。笑うしかない。

「アキちゃん、オレたち、離れ離れになるね……」

「そうだね、でも、このお揃いのストラップが、私と朔ちゃんを繋いでくれるよ。泣かないで。ずっと、待ってるから」

「アキちゃん……! 」

がしっと抱き合う二人を、電車越しに見送った。

 帰宅してからコードで連絡が来て、よくも置いて行ったなと書いてあったが、こっちこそ、ラブラブな世界から置き去りだったのだ。

朔太郎を無視し、ネットで船の記事を探した。

政府が出している新しい情報は、こうだ。

 『これは生態サイクル循環システムを搭載した巨大宇宙船団での外宇宙への亡命計画であり、目的地は地球から14光年先にある人類の居住が可能だと有力視される惑星ケプラー452b。新航法を駆使しても到着まで120年。コールド・スリープ技術は未完成なため、約120年間、人類は宇宙船の中で世代を紡いでいくことが必要である』

 なんだか、ぞっとする話だ。船の中で、世代を紡ぐ?選ばれないほうが良かったかもしれない。どんな奴がいるかも分からないのに、そんな将来のことまで政府に決められているのか。

 ベッドに横になり、将来のことを想像する。

船で彼女作って、結婚して、孫が生まれて……。どれだけ大きい船か知らないけど、今の生活よりも閉塞感を感じる。

 今だって、学校以外に外出するときは親と一緒でなければ外には出られない。なぜかと言うと、子供の犯罪被害をを少なくするためだ。

 2017年、今から百年前の日本では、子供の性犯罪被害が多発していた。策を講じても、犯罪は減ることがない。そのため、政府は子供が外出するときは両親と出かけることを法律で定めた。家族間での犯罪が起こった場合は、他の信頼できる家族との外出が許されている。全ての子供がいる家庭は、政府によって検査される。1人で外出できるのは、学校への登下校のみ。

 この法律が出来てから、子供に対する犯罪はほとんど無くなった。俺たち的には、一人で外出出来ず非常につまらないが、1人で外出しようものならコードから警戒音が鳴り、警官に補導されてしまう。反省文は、30枚。何回かやったことがあるが、流石に懲りて、一人で外出しようとは思わなくなった。

 中学生になって、登校組が始まった。両親が、自宅学習組ではコミュニケーションが取れなくなると心配してのことだ。

 仲良くなった朔太郎と下校している途中、コンビニを見つけた。両親としか入ったことがなかったので、友達と店に入ってみたいという衝動にかられた。

 「なあ、コンビニ、入ってみない、葉」

「俺も、それ言おうか迷ってた。入ってみようぜ」

 緊張しながら、中に入ると、大学生くらいのお姉さんが、商品を並べていた。

「いらっしゃいませ!……あれ、もしかして、中学生?登校組の」

怒られる!俺たちは、同時に「ごめんなさい!」と叫んだ。

「あのね、ルールは守ったほうが良いけど、ずっと良い子でいるの、疲れない?ルールの中に、気を抜ける部分作っといたほうがいいよ。中学生くんたち」

そう言うと、お姉さんは俺たちにジュースを奢ってくれた。

 それから、俺たちは毎日寄り道をするようになった。お姉さんに出会って、楽しい時間が出来た。下校中の寄り道が、一番羽を伸ばせる。自由を感じる、唯一の場所だ。

 「船かあ。嫌だなー、隕石、今落ちてこないかな」

不謹慎だが、今の俺には辛い現実だ。溜息しか出ない。


 翌日から、学校でのマナー授業が始まった。まず、コミュニケーション授業。いくら優秀とは言っても、自宅学習組は家族以外とほぼ接したことが無い。彼らとのコミュニケーションを円滑にする授業や、炊事洗濯が完璧に出来るように、他は、食料が万が一無くなった場合や、仲間が死んだときなど、どういう行動を取るか。

 他にも、色々頭に詰め込まれたが、コードが機能する船ということがわかり、授業は段々といいかげんなものになった。英会話を集中的に行うと言っていた先生が、

 「コードの自動翻訳で足りるだろ!どーせ、私たち居残りは死ぬんです。後は、生き残る皆さんで適当にお願いします」

と言って、今週発売された週間漫画雑誌の最新号を読みだした。

 そんなこんなで、あっという間に船に乗り込む日が来てしまった。持っていくものは、母が用意してくれていた。

 残念だったのは、昨日、最後の寄り道をしたのに店員がロボットになっていたことだ。ロボット店員は冷たくこう言い放った。

「登校組の寄り道は禁止されています。速やかに下校しましょう」

 俺と朔太郎は、がっくりと肩を落として下校したのだった。今までは、お姉さんが「今日も元気に学校行ってきたの?また来てね!待ってるよ」と言ってにこやかに対応してくれていたのに。最悪。

 船に乗り込む前に、両親や親戚と言葉を交わして抱き合ったりして最後のお別れをしていると、朔太郎が俺の横でアキちゃんと抱き合って号泣していた。悲しみが、一瞬で消え去ってしまった……。

 アキちゃんと朔太郎は、離れるのが相当切ないようで、公衆の面前で(テレビ局も、当然、中継している)泣きながら抱き合い感動のお別れ真っ最中だ。

 「アキちゃん……もう、会えないんだね」

 「大丈夫、私たち、きっとまた会える。コードで連絡できるし」

 アキちゃんは現実主義らしい。この1週間、

毎日帰りの電車で朔太郎と抱き合っていたが

「朔ちゃん、今日も顔酷いよ」

「朔ちゃん、ブサイクになってる」

「朔ちゃん、くっそブサイク。ウケる」

など、おおよそ本当に好きなのか?というようなことばかり言っていたからだ。朔太郎が彼女を大好きなので、とりあえず付き合っているようにも見える。何というか、女子特有の「彼氏いないとダサい」という感じ。

 『それでは、これから、この希望を乗せた船は惑星ケプラー452bを目的地として飛び立ちます!我々の、若者たちの夢を乗せて……』

日本のテレビ局のキャスターたちのほとんどが集まり、声を揃えて言った。

 巨大な船に乗り込むため、各国の若者が、時間をずらして船に乗り込む。宇宙船を作ったのは、ナーサという有名な機関と、日本の技術者たち。普通の宇宙船とは違い、めちゃめちゃでかい飛行機、という見た目だ。

 乗り込むと、中には様々な国の人たちがいた。ちょっとワクワクする。朔太郎は、うなだれているが。

「おい、朔太郎、コード変換しとけよ。共通言語設定だぞ」

「分かってるよ」

腕のコードで、共通言語を選択する。

 「よお!お前ら、日本人か?」

黒人の大男に話しかけられた。野球部みたいな頭で、タンクトップに短パンという姿だ。

「そうだよ。俺は葉。コイツが、朔太郎。彼女と離れ離れで苦しくて死にそうだ」

「おい、何だよ、その紹介」

落ち込んでいるくせに、イラっとしたようだ。

「真実を洋画っぽく伝えただけだろ」

「ハッハッハ、お前ら、面白いな、オイラは、

ボルツ。よろしくな」

「よろしく!」

 船はまだ出発していないが、すでに友達になれそうなヤツも出来た。意外と、楽しい航海になるかもしれない。朔太郎は泣いてるけど。


 船が出発して、3日が過ぎた。すぐに様々な人種の友人も出来、わりと楽しい毎日を送れているが、一つ、驚くことがあった。

 朔太郎の浮気だ。

 浮気相手は、ボルツと同じ高校出身の金髪女子、ケイトだ。人形のような整った顔立ちの美人で、2人は出会った瞬間に恋に落ちた(朔太郎談)。今ではラブラブだが、アキちゃんとはどうなっているんだろうか……。

「おい、登校組、来い」

自宅学習組の、(がく)という男子に声をかけられた。口が悪い眼鏡男子である。誰とも打ち解けていないようだが、船の自室が隣なので、俺とは話しやすい?みたいだ。

「何?学」

「勝手に名前を呼ぶな!家族でもないのに」

「で、何だよ」

「コードの頭脳であるメインサーバを、お前の仲間がさっき壊していた。おかげで、言葉が通じなくなって管理ロボットが慌てている。どうにかしろ」

 学とサーバを見に行くと、確かに壊された形跡がある。近くには、遊戯室と書かれたテープの張られた野球バットが転がっていた。

 「朔太郎、お前、これ壊しただろ」

「はあ?何の話だよ。可愛い彼女がいるオレが、んなことするわけねーし。な、ケイト」

「〇×▲□……」

ケイトはサーバが壊れ、言葉が通じなくなっている。

「壊したろ。言葉、通じねーし」

「……邪魔なんだよ、彼女。だからぶっ壊した。これでいいか?どーせ、地球は無くなるんだ。いいだろ!新しい彼女作ったって」

「地球離れて、たった3日じゃん。バカだろ、お前。アキちゃんかわいそーじゃん」

「ああ、バカでいいよ、ほっといてくれ」

そう言って、朔太郎とケイトはどこかへ行ってしまった。

 「登校組、あいつ、クズな仲間だな」

「俺もそう思うけど、最初に出来た友達だからな。まあ、そのうち自分の過ちってヤツに気付くんじゃねえかな」

「なるほど、心が広いな、登校組」

「いいかげん名前覚えろ。俺は葉だっての」

落ちていた野球バットを拾い、管理ロボットが慌てて目?と思われる部分からオイルを流している。

「これは大変です。非常に厄介。目的地の地図が、サーバに入っていたのです。大変、大変。司書ロボットを、ここへ連れてきてください」

「司書ロボットって、本のことしかわかんねーんじゃ……」

「わかります!目的の惑星、ケプラー452bのことは、私は管理しかできないですから、わからない。司書ロボットなら、あの星のことを知っているはずです」

 管理ロボットの言った通り、司書ロボットはケプラー452bの場所を知っていた。

「ここからケプラー452bへ行くには、ワープゾーンを通ってください。そこを通れば一瞬です」

「でも、120年かかるって……」

確かに、そう言われた。先生も政府の人も、ネットにもそう書いてあったのだ。

「かかりません。あるのです。ワープゾーンが。みんな、本を読まなくなったでしょう。あの星について長いこと研究していた科学者がいたのです。先日、その研究をまとめた本が発売されました。本が出版されるなんて、凄いことです。50年ぶりの快挙です。でも、誰も読まなかった。悲しいことです。」


 俺たちは急いで操縦席に行き、操縦ロボットにワープゾーンのことを伝えた。操縦ロボットも「予定にないことです」と驚いたが、サーバも壊れてしまったので、司書ロボットがワープゾーンの場所を指示しながら進むことになった。

 「ワープゾーンは、この場所を右に、真っ直ぐ進んだ場所にあります。輪のような物をくぐって、一瞬です」

その通りに進むと、ワープゾーンが現れた。

「これから、ワープゾーンに入ります。少し揺れますので、お気を付けください」

司書ロボットがそう言うと、辺り一面が白い光に包まれ、足元がふらついた。光が収まると、さっきまでの宇宙ではない惑星にたどり着いていた。


 船から降りてみると、地面には隕石が落ちたような小さなクレーターがあった。辺りを見回すと、耳と頭が長くて、青い体の人間みたいな生き物と、人間?が並んで歩いている。

「すみません、ここ、ケプラー452bですか? 」

「え?それなら、あなたの足元にありますよ。地球に衝突する前に、他の惑星にぶつかりながら落ちてしまったんです。それで、我々ケプラー人は地球に移住しました。ねえ、アキ」

アキ……?アキと呼ばれる女性は、ケプラー人と仲良く腕を組んでいるが、朔太郎の彼女のアキちゃんだった。

「あっ、朔ちゃんの友達……朔ちゃん、元気? 」

「元気元気。呼んでこようか? 」

「いや、いいよ……じゃあね、もう会うことはないと思うけど」

そう言って、アキちゃんたちは去っていった。

恋って、儚いものだ。小さくなったケプラー452bみたいに。


 そんなこんなで、俺たちは地球に戻った。移住計画は無かったことになり、元通りの生活が戻って来た。朔太郎は、コードで会話が出来なくなり、ケイトと別れ、アキちゃんとは疎遠になったみたいだ。

船で出会った学が、登校組に編入してきた。船での生活が、彼にとって刺激的だったらしい。

 「コンビニとはなんだ、クズ太郎」

「おい、葉、この呼び方やめさせてくんねーかな?辛い……」

「本当のことだから仕方ないだろ。あ、店員さん、いつものお姉さんだぞ!やった」

コンビニまで走って行くと、この前の警官がウロウロしていた。見つからないように、隠れながらコンビニに入る。

「いらっしゃいませー!……あ、元気だった?ニュース見たよ!大変だったね……」

 閉塞感のある、窮屈で退屈な日常が帰って来た。街中にケプラー人が居て、船から降りて日本に移住した人も大勢いる。コンビニから外を眺めるだけでも、色々な人がいて楽しい。コンビニのイートスペースに座り、学校で借りた『ケプラー452bの真実』を開いた。世界は、楽しいことでいっぱいだ。






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[良い点] 未来の話なのに、妙にリアリティーが感じられて、面白かったです。 最初から最後まで、楽しく読めました。 [気になる点] 文章はすでに読みやすいですが、さらに読みやすくなると、良いかもしれま…
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