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第三話 豚、裏切られる

魔族の中には、稀に英雄と呼ばれる特異な個体が現れ、古くから国を治める王となってきた。彼らはいずれも“七大罪”と呼ばれるスキルを持っており、その力は戦略級と言われるほど。人族の定める危険度評価のFからSSSまでの九段階のうち、魔王はどれも最上位のSSSにされるほどだ。しかし最近は、七大罪スキルを手にする魔王も減り、次第に純粋な覇権争いにより魔王が決められることとなった。


その例に当てはまるのが、今の魔王のうち、嫉妬、怠惰、強欲、色欲、そしてーー暴食。


暴食の魔王、バアル=アウローラは幼いころから異端であった。基本脳筋である豚鬼オーク族の中では希少な魔導士系の才能があったのだ。


彼はその才能をメキメキと発揮し、魔王の座につくほどの上達ぶりを見せたが、それでも七人の魔王の中で序列七位。それも六位と圧倒的差があるものだった。


それに我慢ならなかった彼は、魔王の称号をいいことに、権力を傘に着てやりたい放題だった。飽くなき欲望のままに。


そのことで配下たちの反感を買っても彼は無頓着だった。序列七位といっても彼は魔王だからだ。自分に敵うものなどいないと鷹を括っていた。


しかし、彼を魔王の座から下ろそうと、人族側に情報を流す者が出てきた。その情報は人族の国々で即共有され、遂に魔王に匹敵するほどの力を持つ人族が動員された。


“勇者”。七大罪スキルに相反する最上位スキル、“七元徳”スキルを持つ人族のことを民たちはそう呼ぶ。


しかし勇者も魔王と同じく、そうやすやすと現れる存在ではなくなっていた。だから人族は作り出した。多次元より勇者の素質ある人間を呼び出す、神をも恐れぬ禁呪を。


結果、暴食の魔王を滅ぼさんと、七元徳スキル“節制”を持った勇者が召喚される。召喚された勇者は、バアルを倒すため、直様、暴食の魔王が治める“グラ”に攻め込む。


生まれ変わったバアルがその情報を掴むのは、勇者がグラに辿り着く、少し前のことだった。


◆◆◆


なんでいきなりこんなことになってんだってばよ!?


急展開すぎない!?


勇者なんて勝てる自信、微塵もないぞ!


「そもそも何で勇者が攻め込んできてんだよ・・・・・」


「どうやら情報が漏洩していたようです」


うぉっ!びっくりした!


って、魔眼のときと同じ反応しちまったよ!


そこにいたのは、やはりメイド服に身を包んだアリスさんだった。


本職、メイドじゃなくて忍者じゃないの?


それはさておき、今気になることを言ったな。


「アリスさん、情報が漏洩したって?」


問うた俺にアリスさんは真正面から返答する。


「このグラの王城までで、最も警備が薄いルートです。勇者は最短時間で、犠牲も最小限でここまで来れるということですね」


確かにそんな情報が漏洩してしまったら絶体絶命だわな。


「取り敢えず・・・・・逃げるか」


次の瞬間、そう独白した俺の耳に信じられない声が聞こえてきた。


「・・・逃がしませんよ?」


背筋が凍りそうなゾッとする声だった。


そこにいるのはアリスさんだけ。つまり今の声を出したのはアリスさんということ。


「アリスさん・・・・・逃がさないって、どういうことかな?」


「勿論・・・・・貴方様をここで討つということです」


そういうアリスさんの目は完全に敵を見る目だった。


「アリスさんは人族側の間者?いや、それとも裏切り者かな?」


「いえ、私は魔族や人族がどうとかは何とも思っておりませんよ。ただ、貴方様の行いについて、もう我慢なりません。昔の貴方様に戻ってくださることをずっと期待していました。実際、今は変わってくださいました。だけどもう・・・・・遅いんですよ」






ドゴン!!!!!






魔王城、その謁見の間の横の壁が突如破壊される。


砂煙の中から人影がうっすらと見え始め、やがてはっきりと眼に映る。


そこにいたのは黒髪のショートヘアに可愛らしい顔立ちが映えるまだ十代にしか見えない少女だった。


「まさかこの娘が勇者・・・・・?勇者って男じゃなかったのかよ」


すぐに魔神の魔眼を展開。


鳴海 鈴 17歳 女 人間 魔法剣士

レベル:89

称号 :節制の勇者

HP :1680/1680

MP :1040/1890

筋力 :1080

耐久 :1430

敏捷 :1780

魔力 : 2650

幸運 : 600


【加護】

聖神の加護


【スキル】

節制(SSS級)

剣術(C級)

火魔法(B級)

水魔法(B級)

風魔法(B級)

光魔法(A級)

料理(C級)


はい、チートの権化ですね。


詰んでるじゃねえか!!


・・・ん?待てよ、これは・・・・・


「この名前、ひょっとして日本人?」


ぴくり、と勇者が反応した。


俺はその反応を是と受け取る。


「やっぱそうだよな?いや、奇遇だな。実は俺も日本人でさ、転生してこっちに・・・・・」





ビュン!!!





「・・・・・気軽に話し掛けないでください。不愉快です」


風魔法だと思われる弾丸を放った勇者の顔は、どこか覚悟を決めたようなそんな真剣な面持ちで、必死に何かを耐え忍んでいるようだった。


「私は・・・私は勇者なんです。たとえ同郷だとしても、魔王ならば倒さなければならない。それが・・・・・それが私の使命だから!」


ああ、なんだか見たことのある表情だな。


そうだ、この娘の表情は死ぬ前の俺にそっくりなんだ。店を出してから、毎日同じことを繰り返して、ただ生きながらえるためだけに働いてたあの頃。


家族や親戚からの重圧で精神的に参って、挫けて、破綻して。それでも逃げることは赦されなくて。


多分、この娘の重圧は俺のなんて足元にも及ばない。


あの頃の俺には死ぬことで逃げ場が出来たけど、この娘には俺を殺すことでしか逃げ場が出来ないんだ。


でもごめん。俺はまだ、死にたくないんだ。


「なんで、笑ってるんですか」


どうやら俺は笑っていたようで、勇者は真剣な表情をやや困惑したように見せる。


「なんで反撃してこないんですか。貴方なら・・・・・魔王なら勇者わたしを殺しに来てくださいよ。・・・じゃないと、私は・・・・・」


今の俺はいくつか魔法を使える。使っても彼女には勝てないとは思うけど、それでも俺が魔法を使わない理由はーーー


「ーーキミが女の子だからかな」


そう言うと、彼女はもう何もしてこなくなった。


次に俺はアリスさんの方へ顔を向ける。


アリスさんは先ほどと変わらず、排他的な雰囲気だ。


「・・・アリスさん、俺はバアルが貴女たちに何をしたのかなんて知らないけど、ごめん。バアルに代わって謝るよ」


「何をおっしゃっているのかよく分かりませんが・・・・・この状況で、まだそんなに余裕なんですね。分かってますか?絶体絶命なんですよ。それとも、もう諦めているんですか?」


いいや、俺はまだ諦めてない。


「それじゃあ、アリスさん、バイバイ。また会えたらいいね」


俺はこの時間の中で、ずっと準備していた。


俺が初めてこの世界で会得した魔法ーーー






ーーー禁呪、“時間転移タイムリープ



その日、俺は時を超えた。








ピコン!!


『【暴食】の欠片が共鳴しました。【神獣召喚術・陸神獣ベヒーモス】を取得しました』


『【魔神の魔眼】が情報を読み取っています・・・・・読み込み中・・・・・【調教術】を取得しました』

結局、勇者との戦闘はありませんでした


次話から第一章に入ります


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