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特務自衛隊  作者: 惣流・キリコ
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国と己のプライド

もう12月に入ってしまいました。体調は大丈夫でしょうか?キリコです。

先日、豊川駐屯地祭へ行きました。74式戦車、61式戦車、60式自走無反動砲が展示してあり胸熱でした。60式自走無反動砲なんですが思ったほど小さくて驚きました。あんな小さいのか…。今後の資料のためにいろんな方向から写真を撮って来ました。

濃霧に包まれて辺りは見えない。無線もノイズだけ発し他の部隊の確認が取れない。

「視界ゼロ…。無線はオープンでも取れないか…。」

蒲生が手に持っていた無線を手前のホルダーにかけると座席にもたれ一呼吸しため息を吐く。腕につけてたゴツいG-SHOCKのデジタル、アナログ統一の腕時計を見る。デジタル、アナログとも停止している。異次元の中にいるからなのか。気持ち悪いほど全ての機能が停止している。窓を開けて外を確かめようと思ったが、何か嫌な予感がしたので伸ばしていた手を止め辞めた。


((何も起こる事はないけど))←作者の声


しばらくすると霧の裂け目が現れ木漏れ日が差し込んでくる。霧が晴れてきたのか。と思った瞬間。あたり強い光が放たれる。そのまばゆい光に眩惑され目を瞑る。


まぶた越しにかかる光が目に通る。まぶたの赤みが消えるとようやく目が開けれた。完全に目を開けるとそこにはまっ広い緑の草原が生い茂っていた。移動したことに気づき時計を見るとアナログ、デジタル共々機能を回復し、それぞれの役目をこなして機能し始めていた。

車内から多くの隊員が外の景色に目を奪われていた。まるでアニメに出てくる様な場所だった。

「綺麗な場所ね〜。見惚れちゃいそうだったわ。」異世界へ来て開口一番喋った言葉がなんとも微妙な白石の感想だった。だがよく見ると戦車の履帯の跡や車輌のタイヤ痕がある。間違いない。彼らもここに移動されたんだと白石らは確信した。

まず近くに喪失した部隊がいないかを確認するため無線で連絡をとる。指揮車LAVの中で白石は蒲生にホルダーにかかってたマイクを渡す。

「隊長。全チャンネルで受送信を願います。」

「隊長はやめろ。昔を思い出す。」

前の部隊で白石に隊長と言われてた感覚がこそばゆく感じながらも彼女からマイクを受け取り無線の送信ボタンを押す。稼働を確認するとマイクに向かい喋る。

「こちら陸上自衛隊、富士演習場にいた演習部隊聞こえるか。こちら陸上自衛隊…」

間を空けて相手の送信を待ってみるが反応がない。まさか全滅…。そんな事は絶対ないはずだ。無線の届かない場所にいるか、無線が使えない状況下か色々あるか。こちらからでは要因はまだ分からない。部隊は周囲の安全を確認して次の行動に出た。


「87式警戒車、LAVとヘリ2機による周囲索敵!?リスクが高いぞ。」

蒲生は白石の作戦には納得がいかなかった。理由は…。

「まだ周りの状況が把握できていない。もし何かに遭遇したら我々まで危うくなるぞ。」

大きな危険性を蒲生が述べた。索敵をすれば部隊の存在を知らせ、待機している部隊をも危険にさらす。さらに現地人との遭遇も免れない。その事を踏まえ蒲生はOH-1単機での偵察を推奨した。

「お姉様、蒲生一佐の言う通りです。早く部隊を探したいのは分かりますが、危険がおよび作戦遂行に支障をきたせば下の子もありません。」

キリコも蒲生の推奨に同意。最終的に決断を決めるのは白石だがリスクを考えてOH-1単機での偵察を決定。白石が無線をとりOH-1に偵察を下した。

「白石だ。OH-1聞こえるか。」

無線特有の砂嵐と一緒に白石の声がインカムから響く。無線に反応したのは観測員の小林だった。

「聞こえます。こちらOH-1。私らをお呼びってことは偵察かな?」

随分と察しがついている。基本は偵察になるのだから彼らもそれくらいは予想していた。

「分かってくれると話は早い。飛べるか?」

「大丈夫です。いつでも飛べます。なぁ(ゆかり)?」

と小林はコックピットの後ろを向き確認する。

「聞こえてらぁ。」

かったるい様なやる気のない様な声を出し返事をした縁。それと同時に2人は機器の最終チェックをする。計器類、ローター、高性能カメラ。準備は整った。「オールグリーン、いつでもいけます。」と声をあげる。白石はそのまま発進の指示を煽ろうとしたが何か息詰まる。何か気になることでもあるのだろうか指示を出さない。すると蒲生の方へ顔を向け「やっぱ警戒車1台だけ随伴させていい?」と苦笑いで言った。蒲生、キリコは片手で顔を覆いため息をついた。

((全く…こう言う時だけ自己主張が弱いんだから…))

と蒲生は白石の要望にこたえてそばにあった作戦資料を手に取り部隊員名簿を探す。偵察…偵察…あった。今度は87式偵察警戒車の乗員の名前を探す。指で辿っていき名前を見つけると白石から無線をよこせと左手を伸ばし手のひらを向ける。ラグはあったが白石は左手に気づき無線を渡す。バトンパスのように鮮やかな無線パスをし手渡す。そしてスイッチをオンにして伝達する。

「OH-1、87式偵察警戒車聞こえるか?」

両者が無線に耳を傾ける。

「87式警戒車も偵察に出て欲しい。地上から立地などの形状を簡潔に伝えてくれ。そしてOH-1は警戒車の上空から偵察をしてくれ。」

「OH-1了解。」

「警戒車、了解。」

双方はそれぞれの任務を受けると行動を開始した。OH-1はローターを回し始める。風を地面に叩きつける音が辺りに響く。生えている草を吹き飛ばす勢いまでローターを回す。警戒車はキーを回しエンジンを蒸す。車内では各機材、武器の確認をしていた。準備を終えると各隊は行動を開始した。



ヘリ機内の独特のキーーーっという音が響く。小林は左右を目視、地上側をカメラで捉えた映像を見ながら偵察する。カメラは草原を颯爽と走る偵察警戒車を補足してディスプレイに映しながら進んで行く。

「こんなにも緑いっぱいだと目に優しいな。」

普段は街中にいる私たちだ。こんなにも緑を見るのは田舎に行くぐらいだが、この場所はそれ以上に鮮やかな緑だった。…………が。

「なんだありゃ…。地面の色が急に変わってる…。」

上空から見ると、まるでケーキカットされた様に綺麗に緑色と茶色と別れている区画があった。小林が計器を操作しカメラをズームする。ディスプレイには茶色と赤色の土がむき出しになっていた。小林はこの異様な状態を無線連絡する。

「こちらOH-1、不自然な立地帯を発見。警戒車、細心の注意を払え。」

地上の偵察警戒車に送る。「了解。」と言うと無線に応答した車長は身を引き締めた。

警戒車は緑と茶色い地面の境目の手前に止まった。すると頭のハッチが開く。中から車長がゆっくりと頭を出す。その瞬間、嗅いだことのない異臭が鼻の中に刺す。急な異臭に反射的に鼻をつまみ頭を伏せる。だが開けたハッチからその異臭が入ってきて中にいる搭乗員4人も鼻に刺激が伝わる。

「かぁぁ、なんて臭いだ!」

「臭い!」

「っっってぇぇ!」

「ぬぅぅぅ!」

あまりの刺激の強さに鼻を強くつまむ。だが車長は「すまないが我慢してくれ。」と言うとハッチから身を乗り出し周りを確認した。

「前へ進んでくれ。」と言うと操縦手はアクセルを軽く踏み警戒車をゆっくり走らせた。少し先へ進むとそこには槍や剣など武器が無造作に転がっていた。そしてその側には炭化した人の形をした人形…。いや、炭化した人が倒れている。中には焼死体も確認された。車長は無線を取った。

「こちら警戒車。人間の焼死体らしきモノを確認。部隊長命令求む。」

急な進展に跳ね上がる白石ら。すぐ返事を送る。

「警戒車は後退、ヘリを見失わないようにしろ。OH-1は偵察を続行しろ。」

白石は地上からの偵察は危険と判断し警戒車を退げる命令を下した。

「了解。」と言うと操縦手はギアを変えバックして後退する。

蒲生が白石の横につき話す。

「あの立地の中の焼死体ってまさか…。」

「ああ間違いない。戦闘の跡だ。」

「残党もいる可能性がある。これ以上の前進は危険という事か。」

「ああ…。」

警戒車は先ほどの境目まぜ退がりOH-1の偵察が終わるまで待機した。

引き続き上空から偵察を行なっているOH-1。ディスプレイに映るのは死体と無残な姿の馬の姿だった。すると地平線の向こうに人工物を見つける。カメラを人工物に向けズームをする。最大望遠で確認すると城壁らしきモノが見えた。40〜50kmくらい離れていてどのくらいの大きさかは分からなかったがあの先は街だろうと考えた。

「こちらOH-1、50km先に人工物。街と思われます。どうしますか?」

「上出来だ。警戒車が下で待っている。すぐ帰還しろ。」

「了解。」

指示を受けると機体を180°転進。警戒車の待つ方へと戻っていった。

「なんとか一歩前進ですね。刺激は強すぎたけど。」

「まさか死体がゴロゴロ転がってるとは…、今思うと吐きそうだ…。」

と警戒車の中で会話をする。車内にいる隊員は先ほど見た光景を話ししていた。OH-1のエンジン音が近づいてくる。車長はハッチを開け身を乗り出し右腕で腕を振る。インカムの無線にて「おつかれさん。」と伝える。小林はカメラを警戒車に向け手を振る様子を見て微笑む。その瞬間、車長の左肩に矢が刺さる。だが次の瞬間左肩に刺さった矢が炎へと変わりたちまち車長を火だるまにした。

「だああああああああああ!!」

激しい叫び声が車内、無線からも響きわたる。小林もディスプレイでその瞬間を見て目が点となった。それと同時に矢野飛んで来た方向へ視界を向ける。

炎に包まれながら車内に転げ落ちる車長に搭乗員は騒然とした。後部偵察員は側にあった消化器を取り出しピンを抜く。車長の身体にノズルを向け全身に噴射させる。炎がおさまり車長の側に寄る。ほんの数秒だけなのに車長の肌はやけ爛れていて辛うじて呼吸をしている状態だった。

「エマージェンシー!車長が攻撃を食らった!繰り返す!車長が攻撃を食らった!」

急な事に無線を聞いていた全員が跳ねる。

「なに!?警戒車は今すぐ戻れ!!追ってくるようなら攻撃もやむなし!」

と言うと白石はオープンチャンネルでその場にいる全員に甲高い声で伝達した。

「全車第1種戦闘配置!LAVは今すぐ警戒車の直衛にまわって!」

警戒車が攻撃された。この不期遭遇の事態に隊員は騒然とするのは当たり前だ。2両LAVの搭乗員は上部ハッチから身を出し5.56mm機関銃MINIMIを取り付け攻撃を受けた警戒車の方向へ援護に駆けつけにいった。


「車長!車長!」

搭乗員の呼びかけに車長は唸りを上げていた。ゾンビのように、生ける死のように反応することしか出来なかった。すると後部偵察員が声をあげた。

「車両より6時方向!人影!」

その方向へTVカメラを向ける。そこにはくぼみがあった。そのくぼみの所から影がはみ出ていた。射撃手は砲塔を旋回させ25mm機関砲をそのくぼみへ照準を合わせる。その瞬間、くぼみからローブを身にまとった人間が現れ杖をを振りかざした。その瞬間杖の先端から火球が現れ砲塔前部に直撃した。だが圧延防弾装甲が貫ける訳もなく車両は無傷だった。

「おい!攻撃されたぞ!撃ちかえせ!反撃の命令は出てるんだ!」

後部偵察員が声を上げる。だが射撃手は照準を定めたまま安全装置を外さずに手に握っている引き金を引こうとしなかった。

「吉田、何故撃たない!車長がやられたんだぞ!」

前部偵察員の小倉が射撃手の側へより胸ぐらを掴む。その衝撃で頭を揺らぐが小倉の顔を見てものすごい剣幕をはった。

「僕たちは人を殺しに来たんじゃない!部隊の捜索が第一じゃないですか!」

その言葉で我に戻った小倉だが…。

「命令を受けているんだ! それには従わなければいけないのだろ!」

「じゃあアンタは自衛隊をなんだと思っているんだ!米軍や露軍と違う!防衛の為の自衛隊だ!国民の命を守る為の武力じゃないのか!関係ない人間をアンタは殺せと言うのかぁ!!」

小倉はついにキレ、掴んでいた胸ぐらをふり投げ吉田を押し飛ばす。あくまで上の言うことを聞かない事に怒った訳ではない。この状況下で国というプライドを持って行動している事に腹を立てたのだ。すると89式自動小銃を持ち扉を開け1人で外へ出ていった。それに続き後部偵察員も後を追うように武装して車内を後にした。

銃を構え突撃する小倉。安全装置を「ア」から「レ」に親指で切り替え撃てる状態にした。

「うおおおお!!」と雄叫びをあげながら単騎で畳み掛ける。声量と単騎でかける行動に気を取られ動作が遅れた。それを小倉は逃さなかった。引き金を引き小銃の火をふかす。弾は地面に飛んだり空へ向かったりする。数発はローブの中へ吸い込まれるように隠れている脚へ当たっていった。痛みを受けると膝をつきもがき苦しむ。その隙に相手に急接近し背後に回る。小倉は腕を思い切り振り相手の首に一撃を入れた。すると相手は魂が抜けたかのように気を失いうつ伏せに倒れていった。

「はぁ…はぁ…、クリア…」

状況終了を終えると後について行った前部偵察員が銃を抱えてやって来た。少し遅かったがここで1人で待つよりはマシだった。無線を取り出すと自分の名前を呼ぶ白石の声が聞こえた。どうやら吉田が状況を伝えたようだ。こういう事は欠かさないのにもっと腹を立てた。名前を呼ぶ白石に伝える。

「こちら小倉、私たちを攻撃した現地人を捕らえました。迎えを要請します。」

すると無線からOH-1観測員の小林が割り込んだ。

「今LAVを向ってる。OH-1を上空で警戒するから。安心して待っていてくれ。」

了解とだけ伝えるとその場で腰を下ろす。懐に入れているタバコとライターを出し一服を始める。渋い顔でタバコを吸う。「ちくしょう!!」とタバコを吸っても落ち着きが取り戻せず吸っていたタバコを地面に叩きつけ踏みにじる。彼は吉田の言った国のプライドを踏みにじっての行動をした。命令、人を殺してはいないとはいえ日本の自衛隊としての誇りを壊した、守るものなしに銃弾を放った事に嫌悪感を抱いたのだ。

「このクソがぁぁぁぁ!!!!」

けたましい咆哮をあげながら背負っていた小銃を地平線に向けて乱射する。

だがそんな事で彼の気が治る訳もなかった。1マガジン撃ち切るとその場で膝をつき静止した。後から来た搭乗員は彼にかける言葉も出なかった………。



警戒車が初期陣地へ戻ってきた。車両が止まると周りにいた衛生班が車両に入り込み車長を降ろし担架で1t半救急車へ運んで行った。その光景を車両から降りて見る吉田の顔は険しかった。


その30m先に白石と蒲生が立っていた。「あの野郎命令無視りやがって。」とズカズカ進もうとしたのを蒲生が白石の頭をひっぱたく。「俺に任せろ。」と蒲生が警戒車の方へ歩いて来る。蒲生は吉田の前に立った。肩に力が入っているのが目でわかる。怒られると思ってたのだろう。しかし蒲生は肩をポンっと叩き「よくやった。」と言った。がその次の言葉には彼の心を傷つけた。

「お前の日本と自衛隊のプライドを守る忠誠心は立派だった。だがここは俺らの常識が通じる世界ではない。理想を貫けばお前は元より周りの仲間を死なせる事になるぞ。」

その厳しい言葉に吉田は膝を地面につき頭をガクッと落とす。自衛隊の誇りとプライドを胸に激しい訓練をしてきたはずなのに否定され傷ついた。吉田は机を拳で叩くように地面に叩いた。何度も、何度も、何度も叩きつける。回数が増す度に強くなっていく。

その惜し悔やむその姿を見る蒲生。

(わかる、お前の気持ちはわかる。こればかりは耐えてくれ、乗り越えてくれ…。)

心の中で発した声。伝わるわけもなく、彼の拳が地面に叩きつける姿が余計に彼自身の哀しさを伝えた。

先ほどの攻撃で被害者が出た捜索隊。その残党員を「ガイド」として捕らえ徴収を行う。だが脱走。取り逃がしてしまう。それに対し白石は非道な命令を下す。


次回:現実と理想

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