15 大天使と天御堂咲久羅3
ぼくは、マリーアントワネット。ペルシャ猫、オス1歳。
僕のおとうさんと、おかあさんは品評会で金賞を取った器量よしで、
ブリーダーさんのところで生まれて、半年後に咲久羅ちゃんの家族にしてもらいました。
「うふふふっ。くすぐった~い。もう、いたずらさんねぇ~。」 咲久羅
いつも寝る時は、咲久羅ちゃんのベットにもぐり込んで、一緒に寝ます。
「あら、マリーアちゃんどうしたの?
急に大人しくなって、部屋の隅の一点を見つめて。」 咲久羅
そこで、切るんかいぃ!?ううん、そんなことはどうでもいいんです。
問題はぼくに見えるものが、咲久羅ちゃんには見えないみたいなのです。
あの部屋の隅から染み出してくるような黒い影。
「なんにも、ないわよぉ~。
ゆっときますけど、咲久羅のお部屋にはいくら探しても、
ねずみさんなんか出てきませんからねぇ~。」 咲久羅
部屋の隅で、黒い影が固まって丸くなります。
そして、ぶくぶくと大きくなって行きます。
やがて、黒い影の玉は開いて、
6本の鍵爪を持つ10本の手と、4本の足、7つの目と100本の牙、
緑の鱗の肌を持つ、恐ろしい怪物になって立ちあがります。
それはとても大きく、天井まで3mの咲久羅ちゃんの寝室でも、
胸から上は天井の上に出て見えません。
「あっ、分かったぁ~☆
さっき食べたフォアグラが、お腹の中でゴロゴロするのねぇ~。
だから、やめときなさいっていったのにぃ~♪」 咲久羅
それがゆっくり近づいてきても、ぼくには何もできません。
だって、見えるだけの猫だから。
5m、・・・3m、・・・2m。
ずっし~ん。
そのとき、巨大な音を立てて、大地が揺れたのです。
ああっ、あのお方が来た。
目の前の恐ろしい怪物も、体を固くして周囲をうかがっています。
ずっし~ん。
咲久羅ちゃんのすぐ横に、巨大な足が降りてきました。
あまりに大きな足で、天井から下ではくるぶしすら見えません。
でも、この巨大な音も振動も咲久羅ちゃんは気付きません。
ずっし~ん。
人はそれぞれ守護霊というものを持っているようです。
こういう人の目で見えない害悪や不運から、その人を守ってくれる存在で、
ご先祖様だったり、縁の深い動物だったりします。
霊の強さはほとんど大きさに比例します。人の守護霊のほとんどは、
人と同じくらいの大きさです。
ずっし~ん。
でも、咲久羅ちゃんには守護霊がいません。だって・・・。
「マリネットちゃん。もう、そんなに気にしないで早く寝なさい。
咲久羅はもう寝ますからねぇ~。」 咲久羅
さっきと切り方違うし。そんなこともどうでもいいんです。
目の前の怪物は、ほとんど逃げ腰です。でも、もうおそいよ。
ずっし~ん。
天井を突き破って、厚い壁のような鉄製の何かが降りて来て、
怪物を分断。というよりも、押し潰すかのように地面へとめり込んでいきます。
きっとそのまま地獄へ逆戻りでしょう。
あのお方が怪物をやっつけてくれたから、
ぼくも安心して寝れるよ。
おやすみなさい、咲久羅ちゃん。
ブロォォォォオォン。
(↑足元に剣を突きたてる咲久羅の守護天使。
”超” 『巨』 大天使ガブリエル。全長2km。)