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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

その他短編

少年と妄想回路な保健医

作者: seia

「嫌いなんて一言も言ってねえし」で始まるBL小説を書きます!d(`・ω・)b http://shindanmaker.com/321047


という題材で書いております。

 

「嫌いなんて一言も言ってねえし」


 オレンジの髪の毛がふわっと舞い上がって素早く保健室に入ってきた、と認識したと同時に僕と触れていた唇の温もりが瞬時に去ってった。


 "ガッシャーン"


 体の横からぶつけたのだろうか、棚に並べてあった薬品や救急セットがバラバラと崩れてうるさい音をたてた。


 一体なにが起きたんだ? なんで僕の保健室でドロップキック? 状況が把握できないまま、ふっとばされた端整な顔立ちが苦痛で歪む彼の姿を見つめた。


 あぁ、なかなか結構な僕好みの顔立ちなのにそんな顔してほしくないなぁ。すっきりした目元や薄い唇が台無しだよ。涼やかさが消えてしまっているじゃないか。


 彼は目を何回もしばたたかせ、しばらく呆然としていたが、僕より早く状況を呑み込めたのか、言葉を発しようと口を開け始めていた。


「ひ、ひどいっ!! ひどいじゃないですかっ! 僕の顔に傷ついたらどーしてくれるんですっっ」


 ゆっくり体を起こしながら、怒りが内側から溢れてくるのか肩をわなわなと震わせている。眉間に青筋が浮かんでいるようにも見える。美男子に青筋……。あまりいい取り合わせではないな。


「顔はともかく、怪我はないかな?」


 色々気分が削がれる中、保健医として当然の質問をした。


「ありません。というか、キックを僕にした彼のことをきちんと注意してください」


 優しげな瞳が、鋭い眼差しになって見える。さっきまで、あぁ最後までシタいなって思えていたのに一気に熱が冷めていくのがわかった。冷たい視線は嫌いだ。同属嫌悪みたいな感情がわき起こってくるから。


「あー、まー、このオチビさんはしっかりこってり絞るから、怪我がないならちょっと君出て行ってもらえるかな?」


 肩で息をふーふーしているオレンジ頭をぽんぽんと軽く叩く。相変わらず身長が僕の胸くらいまでしかなくて触りやすいなあと思っていると、美男子くんはぷいとそっぽを向いて去って行った。

 返り際のつんとしたさまが、端整な顔立ちを引き立たせていて色気を醸し出していて、あぁ、ちょっと惜しいことをしちゃったかな、と頭に一瞬よぎった。でも、さっき急速に冷めていった要素を思い出して、これでよかったんだと思えた。


「さてと……。乱暴者で傍若無人な君にはたっぷりお仕置きをしないとね」


「傍若無人ってなんだよ。お前のほうが、傍若無人じゃんかっ」


 ぷうと頬を膨らませて言われた。膨らませた頬がリスみたいで可愛いな。突っついて、すべすべな頬にむしゃぶりつきたいなぁ。


「おい聞いてんのか?」


「い、痛い。痛い……」


 右足の甲をぐりぐりと上履きの裏で踏まれていた。じ、地味にダメージがくるな、これは。


「痛くしてんだよっ!」


 捨てぜりふなような言い方。男の子にしては、大きな瞳。見上げてくれるその顔、小動物が一生懸命見上げているみたいで可愛い。怒った顔も可愛いなんて、相変わらず罪深い子だな。


「おーい、聞いてますかー? お、じ、さ、ん」


「ん? なんか言ったかな? な・に・か?」


 絶対わざとだ。わざと僕を怒らせる単語を言った。でもここはぐっと我慢だ。そんな言葉で今さっきのドロップキックのことがなかったことなんかさせない。


「なんであの子にドロップキックなんかしたの? 危うく大怪我だったよ?」


「は?」


「君だって怪我しちゃうでしょ?」


「なに言ってんの?」


 あれ? なんだかもの凄い不機嫌な顔になってきたんですけど。気のせいかな? 愛くるしい小動物の影は消えて、背中から殺気が漂っているような……。


「二人とも大切な生徒で……」


 "ドフッ"


「うげっぇ」


 う、う。み、鳩尾(みぞおち)にいいパンチはいったんですけど……。うまく立っていられない。腹を押さえながらゆっくりとしゃがみ込んだ。お腹が苦しい。昼ご飯を食べたばっかりだったら思いっきり吐しゃしてただろうな、と頭の片隅で思いながら。


「お前バカなの? 理由なく他人にキックかますと思ってんの?」


 はい、思います。とは言えない。いつも君は意味がわからないところでパンチだのキックだの僕に見舞ってくれる。それに一時期、かなりガラの悪い子たちとつるんで色々やってたから、その癖が抜けきれないのかな? とも思っている。


「俺っていう恋人がいるのに、なんであんななよなよしたような男とイチャついてんだよっ」


 ……あれ? なんかとても聞き慣れないフレーズが聞こえたような。真意を確かめたくて彼の顔を見つめた。耳まで赤く染めていた。あれ?


「え? でも昨日なんの連絡もなく約束すっぽかしたでしょ? その前日だって喧嘩したまんまだったし。嫌われたのかなって。それにもう僕なんかいらないって思ったのかなって」


 大人のくせに女々しいだろうか。約束をすっぽかされるとかなり精神的にきてしまう。まして連絡もないと余計に。僕が保健医で彼……結月(ゆづき)くんが生徒というお決まりのような危ない関係性で笑っちゃうけど、いい加減に終止符を打ちたいのかな、と。誰も好き好んで危ない橋は渡りたくないだろうし。

 僕は構わない、っていうスタンスがよくなかったのかな? あれやこれや、と色々考え過ぎて面倒くさくなって手近な子でいっときのアバンチュールを楽しみたくなってしまったわけだけど。


「だから、俺が(さとる)を捨てたとでも思ってるわけ?」


 はい、思っています。僕のこと無視したってことはイコールいらない存在ってことでしょ? 


「本気で思ってるの? ねぇ、俺ってそんなに信用ない? 俺たちの関係ってそんなもん? 確かに昨日連絡するのは悪かったと思ってる。でもさ、その……今日悟の誕生日だから、さ、サ、サプライズしようかと思った……」


「え?」


 最後のほうは尻切れトンボのようで、なにを言ったかわからない。でも、あっさり僕に謝ってくれてるし、さらりと僕の誕生日を気にかけた風な言い方じゃない? なに? なんかちょっと嬉しい。昨日のことなんて百あるうちの一つでも、て捉えればいいのかも。


「もう色々順番あったけど、どーでもいいや。悟、ほら手出してっ」


「なんで?」


 ドキドキと胸が高鳴ってしまう。変な期待をしてしまう自分がいて恥ずかしい。大抵付き合った男たちは、僕の意見なんてお構いなしに、あっさりと手を引いていく。最悪なパターンにあてはめると、この会話の先にはやっぱり別れが待っているのかもしれない。手を出した途端、不意打ちで平手をくらって、"お前なんていらない"とはっきり言われる可能性だってあるんだ。

 いい方向に考えるのはよそう。


「……い、おいってば。聞こえてる? 手の平こっち向けてっ」


 ぐいっと腕を引っ張られて、手の平を天井に向けられた。


「これ、……その、き、昨日サイズ直したりしてもらってて……さ、合うかわかんないけど」


 僕の手の平に濃紺の小さな真四角な箱が置かれた。箱は銀色のリボンが十字に結ばれ、可愛くラッピングされている。


「え? 僕に?」


「他にいるわけないだろ」


 嬉しい。嬉しすぎる。昨日約束破られて、結月くんと一緒に撮った写真とか、デートに着た服とか思い出詰まったものは全部処分しちゃったけど、いま凄く嬉しい。

 嬉しいというよりは幸せかもしれない。今まで人を好きになって必死になって、プレゼントをあげるほうだったけど初めて、生まれて初めてプレゼントを貰った。しかも、多分この箱の中身は――――。


「すごい指震えてるけど、だ、大丈夫?」


「うん。あまりにも嬉しすぎて」


 そう、嬉しすぎて涙が目尻に溜まってしまった。そんなことがバレたらからかわれると思い、慌てて拭いながら僕はにっこり笑って結月くんを見つめた。ゆでだこのように顔を真っ赤にさせていて思わず吹き出してしまった。


「な、なんだよ。笑うなよ。っていうかそれ気に入らないならいいから」


 やっとの思いで箱の蓋を取ったのに、むんずと掴み取られてしまった。箱を潰さんばかりな勢いで。中身ちゃんと見たいよ。


「待って、そうじゃないから。すごく気に入ったよ。だって初めてだからね」


「は?」


「結月くんからの初めてのプレゼントだから。中身がどんなものでも大切にする絶対」


「ば、ばっかじゃねーの? 俺の前にたくさん恋人いたって言ってたじゃんか。そいつらにたくさん貰ってるだろ?」


「貰ったことないよ」


「え?」


「今まで人を好きになって必死になって、プレゼントをあげるほうだったから。生まれて初めてプレゼントを貰ったのが今日だよ。ありがとう」


「え? マジ?」


「はい。マジです」


 そう答えると、顔色が治まっていたのに再び赤く染めはじめていた。視線もどこか泳いでいて……。恥ずかしがってるのかな? 挙動不審なほど照れる姿が可愛い。プレゼントの中身なんて確認しなくたっていい。今すぐ抱きしめたい。この嬉しさを感じてほしい。そう思った途端、居てもたってもいられなくなって、僕は結月くんを抱きしめた。


「うわっ、ちょっと待て、ここ学校だから。待てったら、おい」


 結月くんの手からプレゼントの箱が落ちて転がる音が聞こえた。でもそんなことはどうでもよ・……!!


「ぐっっ、ぁっ」


 頼む。アッパーパンチを腹にかまさないでください。痛いです。痛くて驚きで声にならないよ。そして膝からがくんと力が抜けていくのがわかった。今回のは痛く入ったよ。声にならない。


「俺、学校でイチャつくの嫌だって言ったよな? だから今のはお仕置き。でも実はもう一つプレゼント用意してるんだ。勤務時間終わるころに迎えにくるから」


 え? なに? どういうこと? しかもなんか腕を取られてゴソゴソされてるんですけど。痛さで閉じていた目を開くと、結月くんが僕の左手を取ってプレゼントの中身。銀色に光る指輪をゆっくりと嵌めていたのだ。うわっ。慎重になってる結月くんの姿がこれまた可愛い。引き寄せて、無理矢理にでもキスとか色んなことしたい。でもさすがにできない。パンチがじわじわと効いてきて、動くに動けない。


 くそー。ここはひとまず大人しくしてあげよう。歳のなんとか、というので。

 もう一つのプレゼントを用意しているって言った時間帯は、絶対に負けない。隙など突かれないように、普段の倍以上知恵と神経使って、何重もの罠を張っておこう。

 それまでちょっと体を休めよう。

 さすがに短時間で二発強烈なのをくらいすぎてしまった。


 僕は勤務時間だとわかりつつ、ゆっくりと――――瞼を閉じた。





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