嵐
サンライズ勇者シリーズをイメージしたロボット作品です。ですが既存の作品との関わりは一切ありません。感想、評価大歓迎です。ドッロプアウトした場合もどのあたりか記入していただければ今後の作品作りの参考になります。モラルの範囲内での辛口コメント期待しています。
灰煙がたちこめる大地。周辺に散らばった瓦礫からは赤い炎が噴きあがり。黒雲に覆われた世界に寂しく灯りを燈す。少し遠くに目を向ければそこらには少し前まではなにか建物であったであろうにび色の巨影がいくつも立ち並ぶ。その影のなか、くらべて他とは異質な何かが存在していた。高く、高くそびえたつそれは頂点近く一点に怪しい光を宿し、眼下の、もしくは体面に佇むそれを照らし、否、見つめているようであった。
そこには辺りの景色にまぎれてしまいそうなちいさなとても小さな存在が力なくあった。傍らにはその力なき存在を護らんとするように対称的に大きな存在が今まさに朽ち果てる寸前であった。
「おれが馬鹿だったんだ。」
それは愚かっだった。
無知で幼稚であった。手に入れた力に酔い、弱さに溺れ、本当は、力など何も持っていなかったのかもしれない。
瓦礫に交じり弱弱しくある小さき者のいままえで、大きな巨影が力強く光り輝いていく。敗者を笑うように、強者であることを誇示するように激しく大きく。
そして、強者を起点とした閃光が辺りを包む。
世界は白く染まった・・・。
「降りそうだな」
暑い日差しがガラス窓を突き抜け責め立てるように頬を照らす。
四角に区切られた部屋の窓際、机に覆いかぶさるよう肘をつき遠くにある白を見つめる男。窓から流れ込む風が襟と肩を苛立つように掠めていく。
高く重たい響きがあたり一帯に終わりを告げるべく振り撒かれていく。その合図とともに若葉たちは開け放たれたドアから一様に流れていく。
けれど少年はひとり佇んで彼方に目を向けたままだ。
「早瀬君っていつもああしているよね」
少年には届いていないその声は対角線の向こう側帰り支度をしている女生徒からのものである。
「暗いよなあ、あいつ。近寄りがたいっつうか話しかけても生返事ばっかだし。」男の声。
「昔はあんなんじゃなかっかったけど」
また違う色。
「そういえばおまえあいつと小、中いっしょだったっけ」
「一応ね、小学生のころは普通に話もしたけど」返す声に気概がない。
「いつからああなの」興味深げな声が交る。
「う~ん、低学年のころは陽気でクラスでもそこそこ人気もあったけど」通り過ぎた季節をさかのぼりながら話す。
「いつだっけ、夏休み・・・夏休み明けには人が変わってた。静かでさ、最初はみんなきぃ使ってたけどアイツ無視ばっかで次第にな」
横目で早瀬と呼ばれる少年を見やる。
「ふーん」
「そっか」
話がひと段落したところへ廊下から顔をのぞかせるものが
「なあ、おまえら今からカラオケいくっつてんだけどどうする」
「いいじゃんいこいこ」
「あいつは・・・」
「早瀬??いいじゃねどうせ暗くなるだけだしよばなくても、そもそも行きたがらないっしょ」
「それもそうだな」
楽しげに談笑しながら教室を後にするクラスメイト達。
ひとり残った早瀬も緩慢に帰り支度に取り掛かる。最後の一人になった教室。誰に言われるでもなく壁の凹凸に手を駆け暗くなった教室を後にする。廊下に出たところで唐突に声が飛んできた。
「オイ、そこのきみ」
微塵も反応をみせることなく昇降口を目指す。
「きみだよ、きみ。いまシカトしたきみ」
ピタと足を止め渋面で首だけを捻って見せる。視線が交差した。
そこに立っている男は早瀬と変わらぬ背丈、厚みのあるけれどひきしまった体であった。
大きく見開かれた双眸のレンズは早瀬をとらえらんらんとひかっていた。
相手を認識し一層渋面を濃くする早瀬。
「きみ、この後時間ある?」
「なんでんなこときくの」
「そうつれなくするなって」
じっと相手の目を見据える早瀬は、相手の思惑を推し量ろうとしている。
「実はさ、頼まれごとしてくんないかと」
「断る」
「即答!?」
「ほかあたれ」
歩みを再開する。
「ちょっとまって!たのむよ~ほかにいないんだ」
「おれに頼む方がありえないっしょ」
「いや~頼もうと思ったらほか帰った後だし残ってるのって委員とか部活の連中だろ?あ~どうしよって時に君がそこから・・・」
「はあ~」重い沈んだ息がこぼれる。
「そうあからさまにいやがんないでよ、ちゃんと礼はするし」
「で、何?」
「お礼?」
「違う、頼みごと。あんだろ?」
「引き受けてくれんの」
「別に急いで帰りたいわけじゃないし、このまま日が落ちるまでつづきそうだから。あんた、そういう性格にみえる」
「たすかるよ~サンキュまじサンキュ」
校門をぬけると早瀬は自宅とは違う方向へ足を向けた。目的の先は駅近くのアーケードである。歩きながら男の話を思い返す。
「実はさ、妹に渡してほしいもんと伝言があるんだ」
「妹?」眉をひそめる
「ああ、この後妹と買い物行く約束だったんだけど、担任に仕事頼まれちゃってさ、ほら社会のミヤケ」
「しらね、それに委委員長って、みえないけど」
「真顔で失礼なこと平気で言うね」
「妹の件、渡し物はともかく伝言ならケータイ使えば」
「あいつ、ケータイ持ってないんだわ」
言いながら頭をかく男。それを眺めて内心で(ベタ)とつぶやく。
視線を戻し
「もってねえのかよ」
「で、伝言なんだけど。今日遅くなるかもだから先帰れって、それと」そこで区切ると教室の窓越しに遠くの空を見る。
「でかいのきそうだから寄り道すんなって、はい、これ傘。」
「そんだけだな、(こんなこと)けどケータイないんじゃどうやって」
「それなら大丈夫」急に腰に手を当て胸を反らせる。
「この辺で一番かわいい中学生探せばバッチリ」
「はあ?」自身驚くほどあからさまな声が出た。
「それと、これ」そういうと早瀬の手に銀色の硬貨を2枚握らせた。
「何?駄賃?」
「それでタイ焼きかって探せば一発だから」
「ますますいみわからん」
ふと思い出したように早瀬は言った。
「そういや、なんてぇの名前?知らなかったら確認のしようがない。」
「ああ、わるい悪い、おれは久遠静夏。で、かわいい妹はミナト」
「かわいいは余計・・・ってネタ?」間抜けな顔の早瀬。
「いや~親父が大ファンだったらしくてさ、妹につければいいのに、これも長男の宿命ってやつなのかね?」
「あっそ。ミナト、だな」
その場を去ろうとする早瀬。
「おい、チョイ待ち」
「なに?まだなんかあんの」
「恩人の名前をしらなきゃお礼ができないだろ」
「大げさな。いいじゃん、期待してないし」
「そうもいかんおれは4組の久遠静夏だ」
「きいた・・・はあ」今日すでに何度目かのため息をついた。ため息の多い少年である。
「さんにぃ、早瀬優希」
「はやせゆうき、か。よし頼んだぞユウキ」
「調子のんのも大概に、」
「なんだ、いいじゃんか同級生なんだから」
またもため息をつく
「勝手にしろ」半ば投げやりにユウキはその場をあとにする。
「たのんだぞーユウキっ!」
にこやかにシズカは手を振るがユウキが振り向くことはない。面倒くささを胸一杯に広げその足取りのまま渋々片手をあげた。
「つうか「この辺で一番かわいい」ってわかるわけ、身内びいきにしてもさすがになあ。あのシスコン野郎。」ぶつくさ独り言をいいながらユウキは目的のアーケードに差し掛かっていた。(さきにタイ焼きかっておくか)アーケードの入り口上部に駆けられた看板をみつめながら思案する。(律儀だな、おれも)かすかに口元が緩んでしまう。そして柔和な笑みがこぼれた。それを自覚すると驚きを色を示しすぐさまもとの仏頂面に戻る。自分が笑ったという事実を肯定できずにいるのだろう。
「はい、いらっしゃい」手元を見たまま客に応じる店主にそのまま声をかける。
「タイ焼きふたつ」
ふと元来た道を振り返りのぞき見るように空をうかがう。真上の空はアーケードを覆う長大な屋根が遮り正しくわからないからだ。
数時間前は遠くに漂っていた雨雲がこちらに流れてきているのがわかる。
(こりゃ早くしないとまずいな)
依頼通りシズカの妹なる少女を探しながらアーケードを直進していく。しばらく視界の両端をうかがうように歩いているとシャッターの閉まった店のそばで影を見つけ歩みをとめた。そもそも疎らな人波のなか、その流れを一切無視するように立つ少女がいたのだ。手元にもったちいさな紙を眺めながら暗記するでもなくひとり呟いていた。
小柄できゃしゃな体躯。肩までの比較的短めのの髪、周辺中学の制服に身を包んだ少女。
脇を通り過ぎていく男子学生たちは思い出したようには振り返ったり寝違えたように首だけ動くことなく足を進めていく。
「(あながちただの身内びいきでもないってか)」
ここに来るまでに数組の女学生を見かけた。アーケード全体が活気づくまでまだ余裕のある時間だったためその数組さえ少なくはなかった。けれどそれらは話に花を咲かせる群れであったり、異性と仲良く歩くさまだったりで候補から外してきた。
ユウキは間違いないと確信した。なにに起因するものかは知らぬがそう思ったのだった。
おもむろに少女に近づき正面にたつ、自然彼女に覆うような影がかかった。けれどその気配にさえ気を向けず少女は紙にかかれた事柄をつぶやき続ける。そんな彼女に対しユウキは、
「あの、タイ焼き好きですか」そう切り出した。
口を衝いて出た言葉にユウキは思考を止めた。
(なに言ってんだオレ。好きですかじゃねえだろ、会話なれしてなさすぎて言葉間違えた)激しい後悔の念に苛まれる。(まいいか会うの今日だけだし)心のなかで盛大にうなだれて見せる。
けれど時が止まったように錯覚したのはユウキだけのようだった。
言葉に反応してようやく正面に立つ存在に少女は顔を向けた。ユウキの目を見据えて
「嫌いです。大っきらいです」
(ええええええええええええええ!?)
少女の顔を正面から認めた瞬間、ユウキも兄シズカの気持ちがわかる心地がしたがその感想も彼女の言葉で遠くに飛んで行った。
沈黙が二人の間を支配する。(みせればわかるってこういうことじゃねえだろ)二の句を上げられずユウキは立ちすくんだ。
「あのぉ」ためらいがちに怪訝な目が向けられる。
体の自由を奪われたように喉だけを鳴らすユウキ。
「ナンパですか」
途端体の緊張が解け同時に肩の力も抜け落ち項垂れるように肺にたまったものを塊のように吐き出した。
「はぁ~~~~!?」それはマヌケという言葉がよく似合う光景であった。
「タイ焼きでナンパ・・・面白いですね。でもゴメンナサイ本当にタイ焼き嫌いなんです。」少女が一人得心したように話す姿を見ながらユウキは普段の自分を取り戻していく。
「あんた、クドウミナト?」
先ほどまでのかっこわるさを払拭した澄ました顔で切り出した。
「なんで私の名前?超能力??それとも、もしかしてストーカー!!」そんな失礼な言葉も調子を取り戻したユウキはにべもなく聞き流す。
「おれ、あんたの兄さんに頼まれてきたんだわ」
「お兄ちゃんに?じゃあお兄ちゃんの友達なんですか」
「ちがう。・・・そんなんどうだって、コレ」鞄の中から折り畳み傘をとり出す。
「伝言、先生に仕事頼まれて帰り遅くなるから約束はなし先帰れって。あと直に降るだろうから寄り道すんなってさ」天を指指しながらユウキは告げた。
「それをわざわざ?」小首を傾げる。
「無理やりたのまれたんだよ」
「そっかあ、わざわざありがとうございます」
「ん、じゃそういうことだから、ちゃんと伝えたぞ。あとタイ焼き、おれもいらないから」
そういうとタイ焼きの入った包み袋を少女ミナトに差し出す。踵を返すユウキ。
「あの」
「なに?」首だけ振り向いてみせる。
「折角だから買い物に付き合ってください」
「はあ?帰れっつったよな。それに折角ってなに意味わかんねえし」
「折角は折角です。どうしても今日行きたいんです。」
今日は頼みごとが重なる日だなと思いながらユウキは、その理由が柄にもなく人に関わった所為だと思い至る。
「おねがいします」頭を垂らすミナト。
女子中学生に頭を下げられなんともいえぬ心地わるさがユウキを襲う。
首の後ろに手を当て逡巡する。諦めたまた、諦めさせることを諦めた。
「わかった、けどなるべく早く済ませろよ、マジで雨きそうだから。」
ユウキの言葉に一瞬ミナトの顔に花が咲く。
(兄貴ならかわいいと思うかもしれんが、わがままな妹は勘弁だが)足並みをそろえて百貨店へと向かって足を動かす二人。
「で、何買うの?」
陳列された商品を流し見しながらユウキは尋ねた。
「もうすぐ兄の誕生日だからプレゼント選びに」そう言って物色を始めるミナト。
「ああ、夏っぽいもんなあいつ(暑苦しいっつうか)」そしてミナトが手に取った商品をみて言葉をこぼした。
「プレゼントでジンベエねえ」
「だめですかね?」ミナトが振り返った。
「いや、夏だし実用的だし。家族なら部屋着でもプレゼントのし甲斐はあるんじゃ?」
ミナトはユウキの顔をまじまじと覗き込んだ。
「なに?」視線に耐えきれず仰け反る。
「へえー、見かけによらずいろいろ考えてるんですねえ、え~と」
「馬鹿にしてんのか」
「あの」
「今度は何?」
「名前」
「あ?」
「名前、聞いてなかったなって」
ここでもため息をつく
「いいじゃん、別にそんな・・・」
「よくないです。お兄ちゃんの友達だし、こうして付き合ってくれたお礼もしなきゃ」
「(友達じゃねえし)ほんと兄妹だな」
「え」目を丸くしたミナトの顔が愛らしく、ユウキは笑みをこぼしてしまう。
「ふっ!」
すると丸い目のまま違う色をみせる。
「やっと、笑ったあ!」
「んあ?」
「ずっとむすっとしてたから。笑ったらかわいいじゃないですか」
「おまえそれ、年上に言う言葉か」
「それに」
「それに?」
「私の名前は知られてるのに私が知らないのは不公平です。」憤然とユウキを見つめる。
「なに?その理屈?」
「いいから、はやく、おしえてください」
「ほんと押しの強い兄妹だなおまえら」首をすくめる。
「兄妹ですから」
と、悪戯っ子のように笑う顔に満開の花をが咲いた。
「一度しかいわん。すぐに忘れろ」そこでユウキは一呼吸ついた。
「早瀬優希だ」
「ユウキ、さんか」
「どこまで兄妹なんだよ」こめかみがひきつるのを感じた。
「はひ?」
「おい、まだヵ・・・」
「おいじゃありません」
瞬時にミナトの言葉の意味を察する。
「じゃあおまえ」
「おいでもおまえでもありません。ミナトです」
「クドウイモウト」
「だから・・」肩を上げ不満を露わにする。
「よく知りもしねえで名前で呼べるかよ」
もっともらしい言い訳でこの場を切り抜けようとしたユウキだったが
「じゃあ」次の言葉でユウキは固まった。
「ミナちゃんでもいいですよ」またも悪戯っ子の陰がユウキを攻める。
妥協案たりえない妥協案にユウキは思考を止めたくなった。
「ミナトでおねがいします」ユウキは降参した。ユウキの遺伝子がこの中学生には舌戦で勝てないということを認めた。
反して楽しそうにほくそ笑むミナトである。
他愛もないやりとりを繰り返しながら二人は量販店と専門店とを行き来していた。
「ユウキさん、背中貸してください」
「いみねえだろ、兄貴のなんだから」
「大丈夫ですよ。ユウキさんお兄ちゃんと背丈似てるから」
渋々ユウキは注文に応じる。ミナトが何点か品を見繕ったり店員と話を交わしている間、手持無沙汰になったユウキは一人近くにあった装飾品売り場をみやった。銀やガラス玉など色とりどりのアクセサリーを物色しているとその中のひとつ流星をモチーフにしたペンダントに目が止まり手をかける。掌にそれをおさめると瞼を閉じ思い耽った。
壱〇秒にも満たない時をそうしていると背から声が飛んできた。
「それ、気に入ったんですか?」
驚いて目をあけ背後の小動物に視線を向ける。
顎を肩に乗せるように背伸びをした少女の顔が耳元にあった。驚くのも当然である。
「べつにそんなんじゃない。ただ、少し懐かしい気持ちに」
「へえ」
「そんなことより決まったのか」
「どっちですか」その少女の手には2着の甚平がある。
瞬きを数回繰り返し言葉の意味をかみ砕く。
「これとこれ二つまで絞ったんだけどどっちがいいか迷って。どっちがお兄ちゃんに合うかなあと。どっちがいいと思います?」
「両方兄貴に似合うと思って選んだんだろ、だったらあとはミナトが好きな方を選べばいいんじゃないか。おまえが選んだもんをあのシスコンが嫌がるわけないだろうし」
口をポカンとあけ小動物が間抜けな顔でユウキをみつめる。
「どうした」
「ユウキさん」
「なんだよ」
「ありがとうございますっ!」何度目かになる満面の笑みをミナトは再度ユウキに向ける。
細められた目からのぞかせる瞳が光に満ちているようにユウキには映った。
「なっ」
途端胸の動悸が荒くなるのを感じる。
「照れてる、赤くなった」
「なってねえ、それにこのタイミングでありがとうはないだろ」けれど実際は髪が被さった両の耳は熱を持って赤く染まっていた。顔にはさほど出てないけれど。
「かわいい」
「からかうんじゃねえ、がきが。いいからさっさとレジ行ってこいミナト」
「は~い」駆けていくその背は宝物を見つけたように楽しそうだった。
会計を済ませ二人連れだって歩く。
「そういえば」
「お次は?」何度目かになるこの切り出しに半ばあきらめて付き合う。
「さっきミナトって呼んでくれましたよね。2回も!」
「うぅ、おまえが呼べっていったんだろ。わざわざ数えてんな、もう呼ばねえぞ」
「ユウキさんって意外とかわいいんですね」
「年上にかわいい言うな」声を荒げて叫ぶ。この少女に会ってからユウキのリズムは乱れっぱなしである。
「ごめんなさーい」怯えて見せるがその空気は実に楽しげなものだ。
店を後にした二人は両手に袋を抱えながらアーケードを歩く。
「さっきみてた紙ってレシピだったのか」兄を一人待ちながら声に出して読んでいた紙のことである。
「はい、折角だからたまには御馳走つくってお兄ちゃん驚かせようかなって。けどわたしもの覚えわるくて」
「そっか、なら明日になったらおれのこともさっぱり忘れてるわけか、安心した」せめてもの意趣返しのつもりで皮肉を込めてユウキはそう言った。
「それはないですね」きっぱり
「むしろ枕元に出てきそうです」
(おばけかおれは)
「なんで」
「だってこんなに不機嫌な顔ぶら下げてる癖に子供っぽくて優しいしおまけにかわいい、、そんなお兄ちゃんの大事な友達をわすれられるわけないじゃないですか」
ユウキは絶句した。
「突っ込みどころが多すぎて突っ込む気にもなれん」ユウキは大きく項垂れかぶりを振った。すると知らず口から明るい声が漏れた。
「あはは」
「ふふふ」声を伴ってほほえましく笑いだす二人。
「どっかで適当に休むか、荷物多いし帰り大変だろ」
「ほら、やっぱりやさしい」
「いや、それはない、からかうなばか」
ユウキの中指がやさしくミナトの額を打つ。
「いたっ、もう」
前髪を掻き上げ額をさするミナトは恨みをこめた視線をユウキにぶつける。
アーケードを抜け駅近くにある時計台まで二人は歩みをすすめた。そしてそばにベンチを見つけるとそろって腰を下ろした。人心地ついているとユウキは頭によぎった疑問をなんとなく口にする。
「そういや、なんでタイ焼きがきらいなんだ。」
「気になります?」
「いや、おれもすきじゃないけど嫌いな奴もそうそういないだろ、甘いもんがダメとか?」
その答えをうつむいたままミナトは返した。
「前に、冷蔵庫で冷やしたタイ焼きをチンしたらフニャフニャしてて美味しくなかったから」
「なんだって?」
「それから、乾燥したタイ焼きも固くて食べづらかったし」
「ナニソレ!?」
「だって本当に美味しくなかったんだもん」
その様はまんま駄々をこねる幼子であった。
「出来たて食えばいいじゃん」
解決した。
「ったく、何かと思えばそんな理由かよ」そういうとユウキは傍らに置いていた紙袋から熱を失ったタイ焼きをとり出した。
「おれも好きってほどじゃないんだけど」そう言ったユウキの顔にうつろな影がさした。
なにかを、遠くにあるそれを思い出すように言葉を続ける。
「この店のタイ焼き、小3かな、そのころ仲良かったやつに教えてもらってよく一緒に食ってたんだ。そいつ曰く、「ここのタイ焼きは宇宙壱、世界一、いや町内壱うまい。そして冷めてもうまいんだ」ってな。だんだんグレードさがってんじゃんって」
そう言うとユウキはベンチに背をあずけ空を見上げる。そして手に持ったタイ焼きを頭からかぶりついた。やさしい顔で。
その横顔をみつめていたミナトはユウキのなかからわずかに垣間見えた寂しさらしきものを感じとってしまう。
「わたしにも」
そういってミナトはタイ焼きを受け取ると胴体からそれにかぶりついた。
口のなかにひろがる餡の風味と甘みそして生地の弾力を存分に楽むとゆっくりと嚥下した。味を堪能したとばかりに愛嬌のある笑みを浮かべて
「ほんとですね、ギリギリ町内壱美味しいかも」そう答えた。
「なんだそれ」
しばらく二人の間をやさしい空気が満たしてくれた。
数分後、気づけば空は陰気な青で染まり、夕暮れにしてはやや早い空模様で覆われていた。
すると音より先にさっきまで熱を帯びていた地表に黒くてまるい、スポイトで垂らしたような模様が飾られていく。視界に映るそれは幾本もの糸を垂らしたように次々と数を増やしていった。
「わるい、のんびりしてたら降ってきちゃったな。すぐに大振りになると思うから、できるだけ急いで帰れよ。足元気いつけてな。」
ベンチから腰を浮かせるユウキに倣うようにミナトも傘を手に立ちあがる。
「はい、今日は本当にありがとうございました。やっぱり付き合ってもらってよかったです。」
「プレゼント、兄貴気に入ってくれるといいな」
「最後までやっぱり優男ですねユウキさんっ!」
「それ意味違うだろ」
「あはは、それじゃ」
「寄り道すんなよ(これも寄り道のうちか)
傘を広げ別れのあいさつを交わしながらその場を後にするミナトに手を挙げてユウキは応えた。
大きな買い物袋を抱えるミナトの後ろ姿を心配の面持ちでユウキはみつめる。(あの量ならなんとかなるか、な)その顔は普段見せる仏頂面とはまったく違ってて雨の陰によってやさしく隠される。
ミナトが視界から消えるのを確認すると踵を返しユウキは帰途に就く。
まるでやむことをしらないまさしくバケツをひっくり返したような空。
途中、際限なく強さを増す雨に耐えかねてユウキは近くの軒先で雨宿りをしていた。けれど全く衰えを感じさせないその勢いに覚悟を決めそのなかを突き抜けていった。けれどそんなユウキにさらに追い打ちをかけるように強風をともなって一帯を包みこむ。
(台風なんて予報はなかったぞ!?この風じゃ傘があったって・・・)
そのまま肌着、下着、靴下に至るまで水分が衣類に染み込み暗澹たる面持ちでユウキは駆け続けた。ユウキの自宅は学校、駅とおおよそ三角形になるような位置関係にある。自然駅よりも学校に近くなる。
ミナトを見送ってから数十分後。
なおも梢を揺らし電線を波打たせ続ける雨が隆盛を誇るなか、ユウキは視界に下校中であろう久遠静夏をおさめる。向こうもそれに気づいたようで合図もなくほぼ同時にそばにあったタバコ屋の軒下に体を滑らせた。
「おう」
「おう」
「ひゃ~!すっごい雨だな」
「まったくだ」
「ふう、とりあえずちょっとまこうしてようや、気持ち悪~」シズカはユウキと違いちゃんと傘を持っていたがこの雨では役に立たないどころか骨を折るだけなので結果ユウキ同様靴下に至るまでびしょぬれだった。
髪に耳に、顎から。あらゆるところからしずくをしたたらせる学生二人。体に張り付いた衣類が全身から体温を奪っていき時折身震いする。明日も知れぬような陰鬱な表情で空の機嫌をうかがい見る。
「そういやミナトにあえたのかい」シズカがきりだした。
「まあな」
「どうだ、かわいかっただろ?惚れそうになっただろ。でもだめだあのかわいさは我が家の家宝だからな!」嬉々として語るシズカを傍らで
「このシスコンが」蔑視した。
「おれ、ガキに興味ねえし」
「哀れな。ミナトなら年を経ても可愛さを美しさに昇華させさらに磨きをかけるであろうことがなぜわからん」首を竦めてシズカは大げさに頭を振って見せる。
「はいはい」そんなシズカの主張よりユウキには気にかかることがあった。
「そんなのはどうでもいいけど、お前の家駅から近いの?」
「そんなっ!?」言おうとした言葉を飲み込んでシズカは応えた。
「踏切の先に高架あんだろ、さらにその奥の住宅街だから・・・20分もあればつくかな、どうした」
「じゃあ、もう着いてるよな」これはユウキが自身にかけた言葉だったがシズカはその言葉に妹に対する心配の念をくみ取って
「やっぱり妹に惚れたか、まあ惚れるのは自由だ。報われまいが」そんなシズカをユウキは眼を細め視線で黙らせた。その眼は「シスコン」と語っていた。
「そっか、なら親に電話してみるか」びしょぬれた制服の内ポケットからケータイをとり出すと素早く指先を動かす。
「こわれてねえよな」
数秒間、ケータイから漏れ出てくる呼び出し音。その音ははユウキの耳にまで届く。
「あ、母さん。うん今帰り・・・でさ、ミナもう帰ってる?・・・え、そうなの、マジ?・・・」会話の途中で近くを乗用車が水しぶきを振りまきながら通り過ぎる。幸いそのしぶきの範囲から漏れ出ていた二人には被害が少ない。あらためてシズカにめをやるとすでに通話は終わっていた。
「マジとかいってたけどどうだった?」シズカは手にしたケータイを握りしめていた。その姿から考えうる予想にユウキは自然と帰結する。
「帰ってないのか」
「ああ」力なくシズカはそう言った。耳に意識を傾けていないと雨音にまぎれてしまいそうな力ない声だった。学校で見せた陽気さとは対称的なそれは、どれほどシズカが妹を大切にしているかを今日会ったばかりのユウキにも十二分に伝えた。
「家までは遅くても30あれば足りる。道草なんてしてなきゃ」
「もうすぐ一時間じゃねえか・・・雨宿りしてんだろ、おれらみたいに、道草なんてなあ」ユウキは自然と慰めの言葉をシズカにかけていた。
「そう、だよな」
刹那、ユウキの胸にざわついた淀んだものが駆け廻った。悪寒、胸騒ぎというやつだ。けれどすぐに考えを改める。きっとこれは雨で弱った体に起因するものだろうと理由づける。
(・・・風邪ひきかけてんだな、きっと・・・)ユウキの思索も頭にないシズカはさっと顔を上げ笑みを浮かべた。それはあきらかにひきつっていて無理していることはユウキにさえわかった。
「折角頼み引き受けてくれたのに内の妹ときたら、おれ探してから帰るわ。んじゃ」そういうと水たまりを蹴ってシズカはシェードから飛び出していく。
「待てって」思わず口をついた。
「雨に打たれながら振り返るシズカ。捨てられた子犬のような目がそこにあった。顔の凹凸に沿って流れていく水滴は見る者にシズカが泣いているように錯覚させる。
一秒にも満たないためらいの後ユウキは口を開いた。
「おれも探す」(なんでおれ)
「二人ならみつける可能性も上がんだろ」
シズカとは対照的にユウキの目は力強かった。
そしてその眼がシズカにも力を与える。
「さんきゅ・・・頼んだぞ」
「おう」
大雨、いやもはや台風のなか二人は駆けだした。脇目も振らす。
この町ではすでに各種気象警報が発表されていた。
「おれはアーケードをみてくる。あんたは駅から家までの道を」
「わかった、おれのケー番控えといて」
「ああ」
それからしばらくユウキは元来たアーケードの道をひた走っていた。暴風雨は依然勢力を保ったまま近隣都市全体を覆っていた。
「くっ」悲鳴にも似た声がユウキの喉から漏れ出る。ずぶれたままアーケードまでたどりつくと一目散に中を突っ切った。あてはあった。可能性というべきか。目的地前で一度足を止めると恰好も気にせず建物の入り口を潜っていく。そして一気に上階まで駆け昇っていった。そこはミナトと共に訪れたデパートである。目的の衣料品売り場まで来ると視線を泳がせ目当ての店員をみつけると一気にその店員に歩み寄る。息を荒げ絶え絶えになった呼吸を急いで整え肺にためた空気を一度大きく吐き出すとユウキは切り出した。
店員からみた少年はどうみても異常だったに違いない。
「すみませんっ!さっきおれと来た女の子見ませんでしたっ?」
「えっ!?あっああ」
あてとはこれである。指標もなく探すのは厳しい。可能性が低くても縋る目標を思い描いたときこれに行きついた。
仮にあの後寄り道したとすればどこへ行く。詳しく知りもしないが大雨のなか遊びまわるような浅慮に思えない。買い残しか?ならなにがある。メモがあった。プレゼントも買った。ほかに、と考えたとき可能性がよぎった。けれどそれなら自分の方が浅慮だろう。違うと思いたいそんな絵にかいたような展開。今日じゃなくてもいいではないか。そうも思ったがそれよりまともな可能性を見いだせなかった。
だからここにいる。
顔に張り付いた髪が気持ち悪い。垂れ落ちる水滴を拭いたい。そんな思いをすべて胸に押し込んだ。
店員の口元を凝視する。穴があくほどに。
「あのあとひとりで・・・」
戸惑いがちに店員は言った。
「えつ!?あっ、ああ。あのお嬢さんでしたらあのあと一人で来られて」
「やっぱりっ!!」強く強く唇をかみしめた。
やはり店員も覚えていたのだろう。その日に会った人の記憶に残るだけの容姿を少女は持ち合わせている。そういうことだ。
店員がいうには、あれからひとりでまた店を訪れ買い物をしていったという。嬉しそうにという言葉を店員は添えていた。大方仲睦まじいカップルだと思い込んでいたんだろう。
豪雨のなかユウキはひた走っていた。
いつしか空を割るような低い音が上空を駆け抜け稲光が視界の隅で自己主張していた。
「とても嬉しそうにアクセサリーを購入されていかれました。ラッピングもしてほしいって」店員の含んだような笑みが頭をよぎる。わかっているそんなこと、だからあそこへ向かったのだから。店員も店員でそれは伏せておくべきことだろうに。
奥歯を力強く噛みしめながらユウキは駆けた。しかしさすがに体力の限界も近く断続的にひざに手をついて立ち止まる。この時間さえ本当は惜しくてたまらないが体はいうことをきいてくれない。
次第に朦朧とするなか次の目的地を模索するユウキ。雫が眼球を覆い視界を奪いそれを袖口で荒く拭う。ユウキは憔悴しかけていた。あてがないのだ。この状況で今日会ったばかりの少女が行きつく先なんて。今ユウキの体を動かしている原動力は脳裏に浮かぶ少女の陽光で花弁を照らしたような胸を打つあの笑顔だけだった。
どれくらいのときが経ったのかそれでもユウキは走り続けた。視界の隅に寺の石階段が滑りこんでくる。
その時、小さな予感が胸を掠めた。根拠はないいわば直観だ。けれどそんな頼りない感覚が体をその場所へと導いていく。
喉が痛みを訴えるのも顧みず長い石階段を登り終えたユウキは呼吸を整えた。階段の数など数えたこともない。来たことも数えるほどだ、おそらく。それでも50ほどはあろう階段。途中何度もぬめった地面に足をすくわれそうになった。それでもほぼ一息に、この頂上まで上り詰めた。全能感、高揚感?ランナーズハイとはこういうことなのだろう。しかし体は反比例して疲労困憊だ。
足を引きづりながら正面、石畳の奥の御堂を目指す。までもなかった。その手前に力なく倒れている人影があった。息をのんだ。けれど視界が悪い。暴風雨の影響でこの距離でも視認することがかなわない。それでも確信があった。胸の奥で鐘が響く。胸の鼓動が早まるのを痛いほど感じる。駆けだしたい衝動を疲れた体に邪魔されにじりよるように影へと近づく。目前まで来たとき確信は現実に変わった。
「まさかな。まさかとは思うがあのバカ」
脳裏にミナトの無邪気な笑顔が浮かぶ。しばらく走ると神社の石階段フキンに倒れている人影をみつけた。
「あっ」
喜びの声をあげる。すぐに駆け寄るとそれは間違いなくミナトだった。体を抱き起こすと胸元には小さな紙袋を抱えていた。辺りに他に荷物はなく何処かへオイてきたようだった。神社へと続く階段を見上げる。瞬間、昔の記憶がフラッシュする。
自分の周りを炎の海が囲い激しく雨はふれど炎が消えることはなくむしろ勢いを強める。
「よりによってここかよ」
苦々しく吐き捨てる。
ミナトを抱えたまま階段を上り奥のお堂に身を隠す。中に入ると蝋燭に火をつけて灯りを得る。しかし隙間風によってまたたくまにかき消されてしまう。ずぶぬれのミナトに触れると体は熱く、驚きすぐさま額に手を伸ばすと高熱を帯びていた。すぐにミナトの服に手を掛けるがためらいがその手を止める。けれど考えを振り払い濡れた衣服を剥ぎ下着姿にする。その間もその激しさで雨音は中まではっきりと届く。そうこうしているとミナトがうっすら目を開いた。
「おい、大丈夫か。おい?」
「優希さん。・・・おい、じゃないでしょ?」
「こんな時に何言って」
「そうだこれ」
胸に大事に抱えていた袋を手渡す。
「やっぱ、これって」
「あれ?ばれてた?」
いたずらが見破られた子供のようにはにかむみなと。
「ばっ!!言ったろ!さっさと帰れって」
「でもどうしてもこれを優希さんにって思って」
「ミナト、おまえ」
「あ、また言ってくれた」
「おまえってやつは」
「あは、あは」
するとミナトはまた気を失ってしまう。
「おい、ミナト。おい、しっかりしろよミナト」
その手に流星のペンダントをしっかりと握りしめ、ミナトを抱き上げる。
「また・・・」
苦悶の表情を浮かべる。そのとき吹きすさぶ突風に耐えかねた木戸が吹き飛んだ。そして亀裂を出しお堂が傾き出す。どうやら足が潰れたようだ。傾きに逆らうこともできず斜めに滑り落ちていく体。
「なんだよ、なんなんだよ」
恨み節を静かにこぼす。
「またかよ、またなのかよ。くそっ」
度々脳裏に過去の記憶がめざわりに横切る。
「だから、だからっ。誰とも関わり合いたくなかったのに。俺に恨みでもあんのかよ!」
天に叫ぶ怒りの声も嵐の中ではささやき声。
「ははっ、あの時と何も変わんねえんだ」
手に握りしめたペンダントをみつめる。嘆きの雫がこぼれ落ちる。
「頼むよ」
すがりつくようにペンダントをみつめ懇願する。
「頼むよ、頼むからっ。こいつを、こいつだけでもさぁ、助けてやってくれよ。こいつを助けるだけの力を俺に・・・。もう、たくさんだっ!あの時と同じことを繰り返すなんて。自分の無能を嘆くのも呪うのももうたくさんなんだよ!!俺にできることならなんでも、だからさ、だから」
大玉の涙が目に浮かぶ。
「オレに力をくれえ~!!」
“ゴロっ
天から雷が落ちお堂が一瞬で倒壊する。炎に包まれる一帯。しかしその中心で青白い光が二人を包んでいた。優希のペンダントが痛いほどの光を放ち形を変えていく。ただのペンダントにすぎなかったそれが大きく質量を増し巨大な人の形に変貌する。優希たちを包んでいた光は巨人の手のひらに収まる。
苦々しい顔で巨人をみつめる優希。
「なんで、なんでおまえが・・・なんでまたおまえが。なんでなんだぁ!!」
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