12.終幕
「おいメコ助、あそこにいる柄の悪い集団な。あそこへ行って転がってこい。オレ様がすかさず因縁つけて金巻き上げるからよ!」
真っ昼間から物騒な言葉をモコ助にかけているミカボシである。目は完全に肉食獣のそれ。
「モコ助な。そんなことせずに、犬の腹話術で地道に日金を稼ごうぜ」
太陽は天空にある。ちょうどお昼時。
ミカボシとモコ助が、異空間から、ペッ! と吐き出されてから十分と経っていない。
ここはどこかの大都市。立体的な道路構成が目立つ、人通りの多いどこかの歩道。
「あーちくしょう。てめぇと一緒だと、自由になれねぇ! なにか? てめぇはオレの楔か何かか? メコ助!」
「ミカどんの外付け理性とでも言ってもらおうか。あと、モコ助な」
大きく息を吸って、大きく吐くミカボシ。ポリポリと首の裏を掻いて、ピンと耳の棒ピアスを弾く。
「それよりミカどん。おまえ、最後に真島へ放ったの、ありゃ幻覚術だろ? なんであの時放った? 何を見せた?」
「さて? 咄嗟だったので、オレにもよくわからん」
ミカボシが首を傾げた。銀の棒ピアスは一本なのに、チャラチャラと笑うように音を立てて揺れた。機嫌が良いのか、いつもより多く揺れている。
「おい、メコ助! 今はいったいいつだ? 西暦弐千壱百九拾九年くらいにはなっているか?」
誤魔化し感が感じられるが、まあいいさ、と、よく気の付くモコ助は知らぬ顔を決め込むことにした。そして街角の、年数まで表示する時計を見上げる。
「残念ながら、あれから半時間と経っていねぇ。場所を転移しただけだ。その気になりゃ嬢ちゃん達より早く黒岩神社に帰れるぜ。……てめぇ、どうすんだよ! これじゃ格好悪くて嬢ちゃんに合わせる顔が無ぇだろが!」
天下のミカボシに牙を剥いて無事で済むのは、トイプードルのモコ助と、あともう一人、小娘だけだろう。
「うるせぇ! そいつぁお互い様だ! 天津甕星様ともあろうお方が、どの面下げて、ただいま、なんて言えんだよ! オレだって、あのメンバーとの安穏とした生活に戻りてぇよ!」
「てめぇが混じりゃ事件しか起こらねぇんだよ! せめて半年くらい未来に転送できなかったのかよ! ゴラ!」
「仕方ねぇだろが! あん時ゃオレも流れに飲み込まれたが、よくよく考えてみろ! たかが人間風情の能力で、一気に千年も時間跳躍できるワケなかろうが! 場所だけでも跳んだだけ立派なモンだろ! むしろ真島君を讃えてやれよ! 崇めて敬えよ!」
モコ助はあきれていた。鼻を広げて息を吐く。これが冬なら、盛大に白い息が広がって、ミカボシに嫌みの一つも見せつけられたであろうに、返す返すも残念だ。
「で、ミカどん的には、これからどうすんだよ。付いてきちまった以上、ミカどんに下駄を預けるぜ。畜生! オイラ犬だけど、大事なところだからもう一度、畜生! もう少し季節が進めば海開きだろ? 毎年恒例、嬢ちゃんの水着姿が拝めるってによ! とんだ貧乏くじだぜ!」
ここまでは両者とも小声でやり合っている。さすがに大声で犬とやり合えない。
危ない人と思われるのが当たり前。新手の犬の腹話術師と間違われればまだマシ。口銭の一枚でも舞い込むだろう。
ミカボシにも、その程度の理性は宿っている。
「水着って何だ? 何だ! 水着って言うくらいだから、その、……何だ、言え! メコ助!」
ミカボシは大声を張り上げた。
「さすが神。言霊に対して、恐ろしいまでの察知能力。そこんところだけは、局所的に一目置かせてもらうぜ!」
ニヤリと雄共通のいやらしい笑みをモコ助は浮かべる。
「耳を貸せ」
素直に耳を貸すミカボシ。モコ助は、ボソボソとこの世の真理をミカボシに伝導した。
ズビッっと変な空気音を立て、ミカボシの鼻から血が流れ出た。
ミカボシの風紀レベルは室町時代レベル。
そこにはスクール水着はおろか、ビキニなど存在しない。海水浴の習慣など存在しない。
「オレは、今日ほど人類を生かしておいて良かったと思った日はない! あの夜、酒に酔った勢いで滅ぼさなくて良かった!」
流れ出る鼻血を拭うことなく、姿勢を正すミカボシ。
道行く人々は、何事かと二人に距離を置く。
「帰るぞ! モコ助! オレに続け!」
「モコ助な。……ってテメェ合ってるじゃねぇか! なにか? 今までワザとかい!」
光速で走るミカボシの後を同じ速度で付いていくモコ助である。
その時、物理学で仕組みを解説できるはずの太陽が、生き物のように笑ったのだが……。
気づく人はいなかったという。
お終い。
今回をもって「我を恐れよ。そして滅びよ!(ファーストコンタクト)」最終回と致します。
出会いは、こんなお話だったんですね。
以後、ヴァズロックとの戦いとゴンドワナ・ワールドでの冒険へと続くワケです。
「我を恐れよ」三部作零号、ファーストコンタクト編、これにて終了!




