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9.モコ助


 雫は、ジェットコースターの感覚を覚えた。


 光と轟音と熱と揺れは、ジェットコースターの乗車時間とほぼ同じ、五分で終了した。

 雫達を乗せた結界球は地面に墜落。その衝撃で破壊され、三人が放り出された。


 雫が目を開けると、谷の上空に真っ赤な積乱雲が浮かんでいた。ただし、積乱雲の底面と地表は、細長い雲でつながっている。その細い雲はどんどん上へと登っていき、細くなり、すぐに消えた。


「ありゃ、キノコ雲だぜ。核と同じ熱量を持っていたとすると、爆心の温度は数百万度。太陽表面温度を軽く超えている。これじゃ、さすがに天津甕星といえど……」

 長台詞が特長のモコ助が、途中で黙り込んだ。


「い、あ、ミ、ミカボシ……」

 雫の目から涙……はこぼれない。

 代わりに双剣をつかんで走り出した。鬼気迫る表情を顔に浮かべて!


「待て雫!」

「嬢ちゃん! ええい、神々が起こした爆発だ。熱は……冷めてるな。放射能は……無いと思う!」

 真二郎とモコ助も走り出した。


 谷の地表は黒いガラス状になっていた。そして平らだった。


 とても走りやすかった。それが幸いした。さほど時間をかけず、爆心地へ駆け寄れたのだ。

 爆発の中心地で、動く影がが三つと動かない影が一つ。


 動く一つが、肩で荒い息をしていた。

「あの……無敵の甕星が……だ! 三柱の力をもて、現代戦を仕掛ければこの通り」


 真島は、何度も深呼吸を繰り返したが息が整わない。顔色も黒い。だがやり遂げた感が見て取れた。


「邪魔者は消えた。ハァハァ……さあ、現れよ冥界の門!」

 左右から吹いてきた黒い風が、真島の背後で交わり、竜巻となる。


 黒い竜巻はすぐに消えた。

 消えた後に、丸太でできた古びた大きな門が出現していた。


「待ちかねたぞ! この奥に、ハァハァ……、冥界へと通じる黄泉比良坂があるのか?」

 傷だらけの扉。黴と苔が覆う太い柱。


「さあ、開け! 冥界の門!」

 生きる物全ての魂を削るかのような軋み音。汚れた門が、ゆっくりと内側へ開いていく。


 じれったいほどゆっくりした動き。真島は気がはやるのだろう、太い犬歯を剥きだにして時間を耐えている。

 ゆっくりと、ゆっくりと開いていく門の内側から墨色をした瘴気が、亡者の手のように這い出してくる。


 雫は、そんなおどろおどろしい光景を見ていない。

 雫は、じっと見つめていた。三人の中心にある黒い突起を。


 腰までの高を持つ黒い蟻塚と表現すればぴったりか。

 ミカボシの身長の半分ほどのそれからは、動きを止めたカカセヲが、真ん中から突き出されている。そのカカセヲも黒く煤けていた。


「ミカボシのっ、かたきーっ!」

 雫は、手にした剣をむちゃくちゃに振り回し、鬼神がごとき形相で、真島に向け一直線に突っ込んでいく。


 迎え撃ったのは軍神二神。


 鬼神と軍神。数度、斬り結んだものの、はじき飛ばされたのは雫であった。


 力の差は歴然。プロテニスプレーヤーに、羽子板を初めて持った三歳児が挑むようなもの。

 数度でも斬り合えたのが奇跡。生きているのも奇跡。


 仰向けに倒れる雫に向け、フツヌシの巨躯が迫る。


 タイミング的に見て、完全アウト。

「やられる」


 悔しかった。自分が斬られて死ぬのが、ではない。ミカボシの敵を取れなかったことに対して、悔しかったのだ。


 フツヌシの体が見えなくなった。


「雫!」

 代わりに見えたのは、父、真二郎の胸。雫に真二郎が覆い被さったのだ。


 振り下ろされる幅広の剣。

 それは、雫に届かなかった。真二郎にも届かなかった。


「ギャワン!」


 モコ助が斬られた。わざと斬られた。


 二人の前に腹を出して飛び出したのだ。柔な腹を見せられれば、先に斬ってしまおうと思うもの。だからモコ助は腹を出し、わざと斬られた。


「なぜ?」

 雫の脳裏に、母の最後がプレイバックされる。雫をかばって死んだバカな母。


「た、大したことはないんだぜ。嬢ちゃんが、ミカどんの敵を討とうとしたのと……同レベルさ。……嬢ちゃん、これで借りは返した。とは、思って……ない……ぜ」


 ぐったりしたモコ助の体の下から、血が広がっていく。


 雫を抱えたまま、真二郎が後ずさる。斬られるのが延びただけ。次は真二郎。その次は雫の番だ。


 雫の心に何かが降りた。


 母が身を挺した訳が今なら解る気がした。いや、解った。


 身を挺して娘を守ろうとか、自分の命を捧げようとか、そんなんじゃない。

 そういう、行動をしたかったからしたまでのこと。考えての事じゃない。


 ……だから、馬鹿な行いだとか、賢い行いだとか、そんなんで判断する問題じゃない。


 ――愛しているから。


 フツヌシが迫る。


 モコ助がゴロリと転がり、フツヌシの歩を邪魔した。最後の力を振り絞ったのだ。


 小気味よい音を立て、モコ助が宙を舞う。軍神だけあって、蹴りもパワフルだ。


 後ろ蹴りに蹴られたモコ助は、放物線を描いて高く飛んでいく。

 腹から赤い糸を引きながら、ボロ屑のように飛んでいる。


 放物線の頂点で、ゴブリという音をたて、口から大量の血塊を吐き出した。


「モコ助ーっ!」


 ここで雫は初めて泣いた。目から涙が流れ落ちていく。



残すところあと三話。


世の中には、戦ってはいけない存在など無い。

戦う方法を間違っている自分がいるがいるだけだ。

逆転の意味を「教えてやろう」


次話「天の悪星」

おたのしみに!

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