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3.昔の宝箱

 

 真島幸一郎は真島神道の跡継ぎであった。次期当主とも言う。


 真二郎に養子話が上がったとき、一も二もなくそれに応じた。見合い相手にして、雫の母になる女性が美人であった事もある。妙に彼女とウマがあった事ある。


 両親と仲が悪かったのも一因であろう。

 真島兄弟の親は、お世辞にも立派な親とは言えなかった。事あるごとに自分の仕事の辛さを誇張して語る親だった。


 それを理由にし、各種嗜好品を求めた親だった。

 兄弟を言葉の暴力で追い詰める親だった。


 世間一般の平均的な家族、親と呼ぶには口がはばかれる状況であった。

 平たく言って、家族は崩壊している。崩壊していないと思っているのは父だけだ。


 真二郎が真島家を出る意識を持ったのは、少年時代からだった。兄、幸一郎の実力は本物。両親と違い、兄が、真島家当主になるにふさわしい能力の持ち主だと、真二郎が認めていたからだった。


 弟は兄の公正な人格と、なにより優しい心根が好きだった。むしろ真島家当主に幸一郎を推薦する、最有力者だったのだ。理想的な関係と言えよう。


 やがて両親は、不摂生が元で、相次いで逝ってしまった。


「安心して眠ってください」

 相次いで見送る親への、それが弟の決まり文句だった。兄に任せておけば、真島家は安泰である。これは関係者の誰もが思うこと。

 

 ただ、一つ真二郎が心配したのは、兄の優しさだった。優しさは弱さの裏返しと言うが、兄に関してそれは当てはまらない。……と信じるものの、一抹の不安がそこにあった。


 弟は成人してすぐ、志鳥家へ養子に出た。雫はぎりぎり計算の合う年月で生まれた。


 雫が生まれるのと、ほぼ時を同じくして兄は嫁を娶った。 

 一般女性であるが、兄とお似合いの優しい女性だった。


 それからの兄は、張り切って仕事に勤めた。地方に飛び出て退魔業に勤しんだ。


 実力は本物。懇切丁寧な対応と生来の優しさにより、多くの人に感謝され信奉されていった。

 両親が原因で家庭崩壊していた真島家である。兄はことのほか家族を愛し、育んだ。


 妻も夫の仕事を理解し、夫婦仲は良かった。小さな喧嘩はあった様だが、仲睦まじい夫婦であった。


「この頃、強い妖怪が現れると、志鳥家と真島家はよく共同戦線を張ってたんだ」

 真二郎は、懐かしそうにそう言った。あの頃が、兄弟にとって一番幸せな時代だったのだろう。


 やがて、兄に一粒種が生まれた。女の子だった。美咲と名付けられた娘は、両親の愛を一身に受け、まっすぐに育っていった。


「雫は三年上のお姉さんだったんだよな」


 そう言った後から、真二郎は顔を曇らせる。

「ちょうど十年前になるのか。義姉さんと美咲ちゃんが事故で亡くなったのは……」


 真島はとある地方へ出張に行っていた。

 この仕事、どのようなダメージを負うか解らないので、現地へは公共機関を使うのが真島の常だった。


 対象は弱い妖怪だった。しかし、非常に古い物の怪だった。


 時間ばかりかかって、倒すのに手間取ってしまった。と、いうものの最後は地力の差が出た。

 見事、封印。日が暮れる前に術式終了。


 今から帰れば、余裕で最終電車に間に合う。

 今日は泊まっていけ、という依頼者の申し出を丁重に断り、真島は帰途についた。


 時間がかかった故に疲労も大きかった。疲労を癒やすには妻の手料理を食べ、娘の顔を見るのが一番だ。

 最近、娘は白熊の大きなぬいぐるみがお気に入りである。コロコロと一緒に転がる様が、なんとも微笑ましい。


 明日の朝、地元に到着する旨を携帯で告げ、駅までのお迎えをリクエストした。


 ここは田舎の駅。発車時刻まで少し間がある。真島は、駅ホームのベンチで横になった。

 それがいけなかった。真島はうっかりと最終電車に乗り遅れてしまった。

 乗り遅れたことを妻に詫び、到着予定を変更した。


 今から思えば、あの時、居眠りさえしなければ今日のような日は来なかっただろう。


 悶々として夜を過ごし、始発に飛び乗った真島は、焦りながら電車を乗り継ぎ、地元の駅に到着した。

 改札を出ても、家族の姿は無かった。


 やけに駅前が騒がしかった。

 駅前立体駐車場で事故があったらしい。


 最上階から、車が落ちたという声が聞こえた。


 嫌な予感を消し去るため、真島は走った。立駐前は、警察が到着したばかりのようだ。

 だから事故車を見る事ができた。


 真島家で使っている車に見えた。


 半分くらいに縮んだ車だった。


 車の脇に、熊のぬいぐるみが、血まみれになって転がっていた。



「オートマの表示はバックだった。だのに車は前進した。事故の原因は、オートマの制御装置の不良だったんだ。それでこの一件は終わった」


 真二郎の操る車は、郊外の大型施設へと入っていった。相変わらず雨が激しい。


「人身事故はこの一件だけだったが、同様の不調が数十件も起こっていた。この事件後、やっとこの車種がリコールされた。逆に言うと、義姉さんと美咲ちゃんが死ぬまでリコールはされなかったんだ。それに兄さんが怒った」


 個人が逆上したところで、過去は変えられない。死んだ人間は帰ってこない。壊れた幸せは元に戻らない。


「事故が起きるまでに二十件以上の事故があった。その時点でメーカーがリコールに踏み切っていれば、義姉さんと美咲ちゃんは死ななかった」


「それがメーカーの営業手法ってもんさ。それが、大企業と結びついた資本主義国家の末期形態だぜ」

 モコ助が口を挟む。


「兄は狂った。葬式もまともにあげられなかった。一月と待たず、兄は行方不明となった」


 幸一郎達は、自動車メーカーと国家への復讐に出るかもしれない真一郎の行方を必死に捜したが見つけることは出来なかった。残された手段は、動静をうかがうだけだったが、ついぞ行動を起こす事は無かった。


 そして十年後の今。沈黙を守っていた真島家当主・真島真一郎は、いわゆる霊能力者を襲撃しだしたのだ。


「そして、現在に至るというわけだ」


過去、天津神軍を退けた栄光を持つ実力者アマツミカボシ。

現代に置き換えるならアメリカ陸軍と海兵隊が合わさったみたいなもの。

金で動かぬ。情けで動かぬ。まして馴れ合いでなどもってのほか。

……お賽銭(ry


次話「生け贄」

おたのしみに!

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