太陽神は恋をする(後編)
すると、銃口から水が飛び出して、太陽神の胸にかかりました。
銃とは水鉄砲でした。
とたんに、太陽神の胸から水蒸気がもうもうと立ち昇りました。
太陽神もクリムエルも何が起こったか分からず、びっくりしたままです。
その頃、地球に向っていた小さな小さな太陽も、もうもうと水蒸気を立てて、その炎が消えてしまいました。
丸い岩と土のかたまりになったそれは、静かに地球の軌道に乗り、ゆっくりと地球の周りを回り始めました。
神様はそれに月と名づけました。
太陽神とクリムエルは、放心したように立ち尽くしていました。
太陽神の胸からの水蒸気はもう治まっています。
「炎は消えたのですね…」
クリムエルがつぶやくように問いかけました。
「そのようだ。」
太陽神が答えました。
はっとして、クリムエルは太陽神に言いました。
「あなたは、この事が分かっていたのですね。」
太陽神はクリムエルの手にある水鉄砲を見つめながら言いました。
「神様が何とかしてくれるだろうとは思っていた。恋の苦しみは時間がたてば癒やされ、変化する。その聖水がそれを早めてくれたようだ。」
「何に変わったのですか?」
「想いだ。ただの…想いだ。」
やがて夜の世界に顔を出した月は、太陽の光を反射して夜の地球を照らしました。
夜の女王は夜空に宝石を抱き、ますます美しくなりました。
太陽神と夜の女王が結ばれる事はありませんでした。
しかし、想いだけは短い夏の終わりを告げるかのように、とても静かに伝わったのでした。
完