1)【プレディスローヴィェ】またの名を【プロローグ】
はじめましての方もそうでない方もようこそいらっしゃいました。
「Messenger」と同じ世界が舞台の短編集を立ち上げました。広義の意味での番外編の続きのようなものになるかもしれませんが、本編未読でも問題ないようにするつもりです。
遥か昔【エルドシア】と呼ばれた大地の端に【スタルゴラド】と呼ばれる国がある。【古の都】と名付けられたその国は、一方を峻厳な山々、一方を海、そして、三つの国と境を接するこの大陸の中でも歴史ある国だった。
気候は温暖な方だろう。緩やかなものだが、一年には四つの季節がある。そして、北西に聳える高い山並みから吹き下ろされる風は、絶えずこの国を舐めるように吹いていた。
この国を治めているのは王だ。その昔、長きに渡り続いた戦乱を収めたとある男の末裔が、今日に至るまでこの国をまとめ、繁栄へと導いてきた。
これから紡がれるのは、この国に暮らす様々な階層の人々の小さな物語だ。ともすれば日常に埋もれてしまいがちなささやかな出来事―――時の移ろいと共に消えてしまう儚い欠片を悪戯に頸木から解き放たれ、風に吹かれて空に遊ぶ蜘蛛の糸で繋ぎ留めてみたいと思い立った一人の旅人がいた。
そこからどのような物語が生まれるだろうか。
―――――全ては、【リュークス】の御心のままに。
それでは、その旅路が恙無きことを願って、この国の民が篤く信仰する豊穣の女神の名の下に、暫し、祈りを捧げることにしよう。