第三話 策謀
更新遅くてごめんなさい。これからもまったり投稿していきますが、ご了承のほどを…
――…病室
「チッ……生きてやがったか、クソ親父」
「無事で何よりです、葛様」
貉と水華は病室に入るなり、別々の感情のこもった言葉を吐く。
上体を起こしていた蔓は、入ってきた二人に対し口を開く。
「……ふん。私はそう易々とはくたばらんよ。自慢じゃないが、しぶとさには自信がある」
「そのしぶとさを過信すると足下をすくわれるぜ」
事実、先ほどまで集中治療室に入れられ、かなり危険な状態にあった。
治療が終わり、一命を取り止めて、ようやく面談を許されたのだ。
「……葛様、いったいどういう事ですか?」
要所を省いた水華の言葉。一見、意図の分からない発言だが、それを聞いた葛の目付きが変わった。
葛のスーツには強力な防御術式がかけられており、衣服は愚か、露出した肌や顔まで効果が及ぶ。
その防御力は並の防弾服を凌駕しており、ただの鉛弾くらいなら怪我などする事はない。
だが、葛の受けた銃弾は、その防御を破って致命傷を与えた。
ただの銃弾ではない事は明白だろう。
対して、葛は黙って胸ポケットから小さな金属の球を取り出した。
「……私の身体から取り出された弾丸だ…」
「……っ!こいつは…」
「……無茶苦茶ですね」
貉は息を呑み、水華は嫌そうな顔をして呟いた。
その弾丸には『呪解』『破魔』……といった、様々な術が多重にかけられていた。
普通、そんな事をすれば、術と術が反発したり相乗したりして、本来の効果を失う。
しかし、この弾丸は無理矢理に区切って干渉を避けているのだ。
理屈はわかるが、一歩間違えば全ての術が暴走して術者に返っていく。
水華が無茶苦茶だといったのはその点だ。
リスクが高すぎる。
「こんな芸当は私にもできん。しかもこんな弾丸を用意したという事は、狙いは梶木氏ではなく私だと言う事だ」
葛の言葉に、貉と水華は頷く。
「当然そうなるな。あの政治家を狙うなら、普通の弾丸で充分だ」
「この弾丸を使った者は、葛様のスーツに防御術式がかかってる事を知っていた……少なくとも、只者ではないですね」
「……それだけではない」
二人の見解に、葛が付け加える。
「つい先刻にお前たちが退治した妖怪……疾影衆の調べで、何者かに式を下されていたのがわかった」
「なんだと!」
「しかも霊力の質から、この弾丸に術をかけた者と同一犯の可能性が高い」
「!」
貉が愕然とした表情で、目を見張る。
妖怪に式を降ろし傘下に治めるという事は、その妖怪に術者を認めさせる必要がある。
葛のような一流の術者でも、使役にするなら小鬼のような弱い妖怪が限界。
そして、あの犬妖は文献に名を連ねるような強力な妖怪だ。
そんな妖怪を式として使役する術者なら、半端な実力ではない。
「お前たちも気をつけろ。敵の狙いがわからん以上、次にどんな事が起こるかわからん。疾影衆に弾丸から検出された霊力を逆探知させてるが、期待はできん」
「……後手に廻るのは気に入りませんね」
悔しそうに呟く水華。
だが、今は後手に廻って様子を見るしかない。
人物紹介・呉
法印・宗次 99歳
現在の法印家の当主。世界でも名を馳せる霊能力者で、現役の陰陽師としては最強と言っていい実力だが、かなり変わり者。
今は世界中であちこち飛び回っている。