序章
キャラ紹介・其ノ壱
貉(16歳)
主人公。法印一族本家の嫡子で、生まれつき高い霊力を持つが、性格が大雑把なせいで霊力のコントロールが雑。
「……なんでこんな事になっちまったんだろうなぁ」
麓霊山の中腹で、法印 貉は、今の現状に盛大なため息と共に言葉を吐き出した。
「…それは貉がどうしようもなく間抜けで軽率だからです」
傍らにいる女、水華からは、冷たい口調が突き刺さる。
それに対して、貉は目を据わらせた。
「けどよ水華。今回のこれは俺のせいか?」
よく見れば二人は泥だらけで土に身体を沈めていた。水華に至っては、首から下が地面に埋まっている。
「……では、誰の責任であると?」
「あーもう!はいはい、俺ですよ!俺のせいですよ畜生っ!」
低い位置から睨まれ、丑の刻過ぎの夜闇の中、貉はもうヤケクソになって喚いた。
…数分前、
巨大な蟒蛇がぐわっとアギトを開いて突進してくる。妖怪と死闘の真っ最中だっだ。
蟒蛇の突進を二人は跳躍してかわす。
「六花・封縛!」
跳躍した水華が空中から縛魔術を放つ。
霊力が生み出した蔓が、蟒蛇を地面に縫い付けた。
水華が動きを封じたところを、貉が腰から刀を抜き放ち、蟒蛇に向かって一直線に落下する。
「我が御手に地脈の力…」
真言を紡ぎ、刀に術式を乗せると、蟒蛇の額に怒号と共に振り下ろした。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
刀から黄色い波動からあふれ、振りかざされた刀身は蟒蛇の頭を両断した。
――…土ノ式・断絶斬
陰陽五行の土の力を刀に上乗せした刀術だ。
水の性を持つ蟒蛇にとって、土の術は相剋。つまり弱点だ。
術で額から顎まで両断された蟒蛇は、ピクピクと痙攣したまま動かなくなった。
しかし……
「っ……!?」
「地面が…!!」
ズズズ……と地面が揺れ始めたかと思うと、突如、ボコッと沈んだ。
貉の術が強すぎたのと、地下に蛇の巣穴となっていた空洞があった事が災いして、ちょっとした地盤沈下が起きた。
ちょうど二人の真下で。
「「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
二人は投げ出されるように土砂の波に呑み込まれた。
…で、現在に至る。
土に埋まったままの状態で、水華は辟易した様子。
「…あなたは何でいつもこうなのですか。だいたい、相手は蛇なんですから、地下に空洞がある事ぐらい考慮できるハズですよ」
「…あんまり生意気ぬかすと、引き上げてやらんぞ」
確かに水華は首から下が地面に埋まっている。自力で脱出するのは難しいだろう。
だが、当の水華は涼しい顔で「ご心配なく」と言うと…
「……破っ!」
「うおっ!」
水華は身体から霊力を爆発させ、周りの土を吹き飛ばした。
余波を受けた貉が吹き飛ばされて転がる。
「水華、てめぇ何しやがる!」
「……」
地面に屈伏している貉が怒鳴り付けるが、水華は全くもって応える様子もなく、涼しい顔で受け流して、土から出た。
「…もう戻りましょう。あまり遅くなると明日が辛いです」
「…聞けよ」
貉の呟きを無視して、水華はそそくさと立ち去った。