第九十三話「ドナ様、降臨」
「ねぇ、誰か朝からずーっと玄関でポージングしてる人いない?」
トキオが朝食のトーストをかじりながら、眉をひそめる。
ヒカルがのぞきに行って、すぐ戻ってきた。
「……ドナだ」
「また来たのかあの輪っか姫!」とサンが顔をしかめた。
玄関には、輪っかつきのゴージャスな帽子をかぶり、手鏡片手にくるくるとターンを決める土星――ドナの姿があった。
「は〜い♡ ヒカリ荘のみんな〜、ドナ様の登場よ〜♡」
「土曜日じゃないのに土星来るの、紛らわしいんだよな……」とトキオがぼそっと言う。
「それにしても今日はまた派手だね」とミラが目を丸くする。
ドナはキメ顔でウィンクする。
「だって今日は“大接近の日”よ? 映える写真が撮れるチャンスなんだから!」
「なにと接近してるの?」とヒカル。
「わたし自身とよ♡ つまり、最高の自分と出会う日!」
「セルフ接近……?」
ルナが静かに呟いた。
「でも、たまにはいいわね。こうして自分を大切にするのも」
ドナはくるりと回って、再びポージング。
「この角度、この光、この輪っか! 完璧!」
サンがため息まじりに笑った。
「ほんと、ドナって自由だなあ」
「自由は芸術よ。わたしという宇宙を、今日も輝かせてるだけ」
「自分で“宇宙”って言うの、なかなかだな」とトキオ。
その日のヒカリ荘は、玄関に並ぶ大量の自撮りとキラキラフィルターで、少しだけ眩しく、少しだけにぎやかになっていた。
「これ、あとで全員にタグ付けしとくから♡」
「やめてくれ〜!」




