第八十八話 ぼくらの光は、届いているか
「なあ、ヒカル」
「ん?」
「ぼくらの光ってさ……ちゃんと届いてると思う?」
昼下がりのヒカリ荘。
縁側に寝転ぶミラの問いに、ヒカルはちょっと考えてから言った。
「届くさ。だって、光ってそういうもんだろ」
「でもさ、地球から見た星の光って、何年も前に出た光なんだよね。もうその星はないかもって話、よく聞くじゃん」
「あるある。でも、オレたちにとっては“今”の光でも、誰かにとっては“過去”の光になる。それって、すごいことだと思わない?」
「うん……けど、ちょっと切ないね」とミラ。
そこにトキオが麦茶を持ってやってきた。
「つまりオレたちは、会ったことのない誰かに、“昔の自分”を見せてるってことか」
「なんか妙にエモいこと言うな、おまえ」とヒカルが笑う。
「いやでも、そうだよね」とミラがぽつり。
「ぼくらが発した光が、どこかの空で“きれいだな”って思ってもらえてるかもしれないって、それだけで、がんばれる気がする」
「うん。それに、ぼくらってすぐに変われるわけじゃないし」とヒカル。
「毎晩コツコツ光って、いつか届くと信じるしかないんだよな」
トキオは麦茶を一口飲んで言った。
「光は、届くのが遅いけど、消えにくい。オレたちの存在って、そういうもんだと思う」
ミラがうなずいた。
「だから今日も、きれいに光ろう。すぐには届かなくても、きっと誰かが見てる」
「未来の誰かに、“今のぼくら”が届くといいな」
縁側に差し込む光の中で、三兄弟はしばし静かに空を見上げた。
空はいつもと変わらず、ただ、青く澄んでいた。




