第八話 雲たち、ストライキを起こす
朝。ヒカリ荘の空に、雲がいない。
「今日はやけに青空が広がってるなぁ……」
太陽が腕を組んで言った。いつもならふんわり浮かんでいる雲たちが、一人残らずいない。
「……空、がらんとしてるね」とミラ。
やがて、ポストに差し込まれた一枚の紙が見つかる。
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《雲組合からのお知らせ》
われわれ雲は、ただいまストライキに突入しております。
理由:労働環境の悪化(太陽が照らしすぎ・星たちがイタズラしすぎ・月の詩が湿っぽい)
復帰条件:昼寝タイムの保障、雷様のライブ自粛、気分転換に海へ行きたい
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「……なにこれ、要求が多すぎる」と月が呆れた。
「そもそも、雲ってそんな意志あったんだな……」と太陽。
「いや、あったんじゃない? だって人間も“気圧が低いと気分が落ちる”って言うし」とヒカル。
「逆に言うと、雲がいないと“気圧が高すぎて疲れる”かも?」とトキオ。
「ミラはね……曇り空の方が落ち着く日もあるの」
星たちは、「空模様って、気分と似てるんだなぁ」と小さくうなずいた。
その日の午後、太陽が「雲のみなさまへ」と題した手紙を書いた。
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「日なたばかりじゃなくていい。
あなたたちの陰があるからこそ、空は深くなる。
また気が向いたら、ふらっと流れてきてくれたら嬉しいです。」
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その夕方、ふわりと一筋の雲が現れた。
空に、ちょうどいい陰が差す。
「……やっぱ、こうでなくっちゃな」と太陽が言った。
「空って、誰かの気持ちみたい」とミラが微笑んだ。
空模様は、誰かの気分でできている。
そんな気がした日だった。