第八十五話 あなたの輪っかは、どんなカタチ?
ヒカリ荘の縁側に、丸い影がひとつ。
「やっほ〜ん。美しき輪の貴公子、ドナ様のおな〜り〜♪」
「おお、ドナ! 今日は珍しく、落ち着いたテンションじゃん」
サンが手を振ると、ドナ(土星)はふわりと腰かけて、自撮り棒を取り出した。
「たまには静かにね。“夕暮れ映え”ってやつを狙ってるのよ」
ルナがくすっと笑う。
「でもドナ、あなたの輪って、本当にきれいよね」
「でしょ? まさに神がかり。SNSでも“天の指輪”って呼ばれてるくらい」
ヒカルが首をかしげる。
「でもさ、その輪っかって……自分で見えないよね?」
「…………」
一瞬、空気が止まった。
ドナはスマホの画面を伏せたまま、ぽつりとつぶやいた。
「そうなのよ。“自分の輪”って、自分じゃ見えないのよ。
でもさ、人ってさ、きっと誰もが何かしらの“輪”を持ってると思うの」
「輪?」
「そう。つながりとか、守りたいものとか。自分だけの“円”」
ミラが、そっと手を重ねた。
「ドナの輪は、たくさんの思い出でできてるんだね」
「写真の中には、いつも誰かがいる。だから、映えてなくてもいいの。
“残したい”って思う瞬間を、集めてるだけなのよ」
風がそっと吹いて、ドナの輪をやさしく撫でた。
「……まひろちゃんがさ、言ってたのよ。“思い出は、見えない輪っかみたい”って。
あの子、けっこう詩人よね」
みんなで笑った。
やがて夜が来て、空にははっきりとした土星の輪が浮かんでいた。
見えないものも、そこにある。
ドナのカメラロールは、今日も誰かの笑顔で満ちていく。




