第七十九話 ヒカリ荘の行方
翌朝。ルナは、自室でじっと通知を見つめていた。
「……なにか、引っかかる」
封筒の差出人欄をもう一度読み直し、ふと気づいた。
『対象物件:ピカリ荘』
「……ピカリ荘?」
ルナは目を見開いた。
「違う、ヒカリ荘じゃない……!」
居間に飛び込むようにして出てくる。
「みんな!! 勘違いだった! 昨日の通知……“ピカリ荘”宛てだったのよ!!」
「ピ……!?」
「ヒじゃなくて!?」
「ちょ、めっちゃ似てる名前やん!!」
全員が一斉にずっこけた。
「えー、ってことは……オレの夢、なんだったん!?」とサン。
「漢字よりカタカナで間違えるって、逆に高度!」とヒカル。
ヒカリ荘に、苦笑混じりの空気が流れる。
「じゃあ、このチラシも……」とミラがめくると、そこには堂々と書かれていた。
『ピカリ荘跡地にて大解体セール実施中!』
『お住まいの皆様へ――(※該当物件:ピカリ荘)』
トキオがため息をつく。
「もう、完全に間違えてたじゃん……」
ルナは、恥ずかしそうに頬をかきながらつぶやく。
「……ごめんなさい。私が、早とちりして……」
ミラがにっこり笑った。
「でも、ぼくはちょっと嬉しかったよ。
みんなが“ここを失いたくない”って、真剣に考えてくれて。
“いつもの日常”が、どれだけ大事かって思い出せた」
ヒカルがうなずく。
「最初は焦ったけど……結果的に、ヒカリ荘っていいなって再確認できたよね」
「うむ、祝・ヒカリ荘継続っ!!」とサンが両手を掲げる。
「なんでお前がまとめるんだ……」とルナが小声でつぶやいた。
こうして、長い一騒動は幕を閉じた。
太陽が差し込むヒカリ荘。いつもと変わらない朝。
でもその空気は、ほんの少しだけ──あたたかかった。




