第七十八話 さよなら準備委員会
「じゃあ……この空とも、そろそろお別れかぁ」
夕暮れのヒカリ荘。星三兄弟のトキオが、屋根の上でぽつりとつぶやいた。
「でも、そう言われたら……見える景色もちょっと違って見えるよね」とミラ。
あの一通の通知と、ルナの静かな言葉から始まった「ヒカリ荘消滅説」は、完全に信じられていた。
ルナ自身も静かに荷物をまとめていた。
「感傷的になるのは、悪いことじゃないから」と、いつになく詩的なテンションで。
「ならオレは!」とサンが手を挙げる。
「最後の晩餐作るわ! 燃えるやついこうぜ! ってことで、火気担当よろしく!」
「自分でやらんかい」とルナの冷たいツッコミが飛ぶ。
そこへ、仲間たちが顔を出した。
「ヒカリ荘、なくなるって本当?」と雲。
「一瞬の輝きだったぜ……」と虹が手をかざす。
「じゃあ今日だけは、音量オーバーでも許してねぇぇえ!」と雷が爆音と共に登場。
風が肩をすくめる。「この空気、揺らしたくない夜もあるよ」
流星が遅れて現れた。
「願いが、やけに多いと思ったら……こういうことだったのね。
“ヒカリ荘がなくなりませんように”って、こんなに届いたの初めてだよ」
ヒカルが答える。
「……ありがとう。でも、もうすぐ届かなくなるかもしれないから」
住人たちは、思い思いにヒカリ荘を歩いた。
一番落ち着くソファ、いつも立っていたキッチンの隅、夜空を見上げたベランダ──
それぞれが、静かに何かを確かめていた。
その夜。
ミラは、あの“封筒”を手に取り、じっと見つめていた。
その裏には、何か小さな紙片がくっついているようだった。
「……あれ? これ……」
ミラの目がすこし見開かれたところで、夜は更けていく。




