第七話 満月の夜に詩人は壊れる
ヒカリ荘の深夜。
月の部屋から、なにやら聞こえてくる。
「この世のすべては、泡――いや、泡沫――いや、ふあわわ……! ふわあああ!!」
……今日の月は、様子がおかしい。
「満月だな」と太陽が言った。
「満月だね」と星たちも言った。
「テンションが、満ちてる……!」とミラが震えた。
月はふだん、静かでクールな詩人だ。
だけど――満月の夜になると、ときどき詩が“暴走”する。
「月って、潮の満ち引きにも関係あるんだよな」と太陽が言う。
「人間の体も60%以上が水分だから、もしかして……」とヒカルがつぶやいた。
「つまり、月自身も自分で自分を操れない説……!」とトキオが勝手にまとめた。
そんな中、月は叫ぶ。
「この世界は輝きで満ちている! すべては光! 私は光の使徒!! 我は満月教!!!」
さすがに太陽が止めに入った。
「ちょっと落ち着けってルナ! おまえ、完全に夜空のカリスマになってる!」
「いや……これは詩! 言葉という名の満ち潮なの!!」
星たちは慣れた様子で「満月対応マニュアル」を開く。
紅茶とチョコとラベンダーの香りを準備し、静かに彼女の隣に並ぶ。
数分後、すっかり落ち着いた月は、また静かな声に戻っていた。
「……ごめんなさい。少し、膨らみすぎてしまったの」
「満月だからな」と、太陽が笑う。
「みんな、そんな夜もあるよ」とミラが手を握った。
窓の外には、大きな満月。
静かなようで、ざわめいている夜だった。