第七十五話 虹、通過中。
午後のヒカリ荘。雨があがったばかりの空に、薄く七色の帯がかかっていた。
「……来たな」とサンがベランダからつぶやく。
「うぃーっす☆ ひさしぶり〜!」
雲の隙間から飛び出してきたのは、ド派手な衣装にきらめく髪――七色の旅人、虹だった。
「今日も相変わらず派手ね」とルナが紅茶を入れながら言う。
「いや〜、派手じゃないと誰にも見つけてもらえないからさ! 目立ってなんぼよ、オレ!」
トキオが笑いながらつっこむ。
「毎回毎回、空のド真ん中でポージングしてるの知ってるからな!」
「見られるって、意外とプレッシャーあるんだよ?」と虹は照れ笑いする。
ヒカルが静かにたずねた。
「……ちゃんと、気づいてもらえてる?」
虹は一瞬黙って、それからぽつりと答えた。
「半分くらいは、スマホ見てて気づかれない。
でもさ、ほんの数人が“うわっ、虹!”って声をあげてくれるだけで、もうそれだけで……いいんだ」
そのとき、下界の公園で、まひろちゃんとあきらくんが空を見上げていた。
「にじだ! おそらに にじ!!」
まひろちゃんが指をさす。
あきらくんは「うー」と小さく声を出しながら、その指先を追いかける。
ヒカリ荘からその様子を見下ろした虹は、ふっと息を吐いた。
「……いたわ。“見てくれる子”が。今日はそれで満足」
「にじって、ほんとに一瞬だよな」とトキオ。
「だからこそ、輝くのかもね」とミラ。
虹は肩をすくめて、空の中へと消えていった。
そのあとに残ったのは、風に少し揺れる木々と、
七色の残像だけだった。




