表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/151

第七十一話 風のない風の日

 ヒカリ荘の朝は、いつもより静かだった。


 木の葉も揺れず、洗濯物もまったく動かない。


 「……今日、空気止まってる?」とサンがつぶやく。


 「風がいないのかも」とミラが外を見つめる。


 そのとき、廊下の隅からひょっこりと現れた細身の青年がひとり。


 「……やあ。ちょっと“吹く気分”になれなくてさ」


 “風”だった。


 薄いコートをひらりとなびかせながら、肩をすくめて入ってくる。


 「いつも元気に吹いてるのに、どうしたの?」とヒカルが声をかけると、


 風は、髪をかきあげながらぼそりとつぶやいた。


 「たまには止まりたいんだよ、僕だって。ずっと動いてると、自分の音が聞こえなくなるからさ」


 「風にも、疲れる日があるのね」とルナが紅茶を差し出した。


 「ありがとう……風のくせに“ふわふわしてない”って言われる日もあるけどさ、本当は気分屋なんだ」


 「そうだよなあ」とサンがうなずく。「止まってると、“静かで落ち着く”って言われることもあるしな」


 ミラがぽつりとつぶやく。


 「風がいないと、ちょっと寂しい。でも、無理して吹かなくていいと思うよ」


 風は目を細めて笑った。


 「ありがとう。……じゃあ今日は、ここで少しだけ寝ててもいい?」


 そのまま、ソファに身を沈める風。


 音のないヒカリ荘。

 窓の外の木々が、風の“おやすみ”を見守っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ