第六十九話 雲って、どこから来るの?
午後のヒカリ荘。縁側に寝転ぶサンが、ぼーっと空を見上げていた。
「なあ、あの雲って、どこから来たんだろうな」
ふとしたひとことに、ルナが本を閉じて言った。
「水蒸気が上昇して、空気中で冷えて凝結して……って答えで満足?」
「理屈じゃなくてさ。もっとこう、“気持ち的に”?」
そのとき、ふんわりと現れた白い影。
「どこから来たかって? そりゃあ、気まぐれの国からよ」
雲がいた。
ふわっと笑って、ヒカリ荘の屋根に腰を下ろす。
「人はよく“流されやすい”って言うけど、私に言わせれば、流れるのは“気持ちのほう”なのよね」
「詩的なこと言ってるけど、あなた今日、形いびつじゃない?」とルナが指摘する。
「ちょっと心がね、モヤってたの。ああ、でもここに来たら少し晴れてきた」
ヒカルがやって来て、雲に尋ねた。
「ねえ、雲ってさ、自分でどこに向かうか決めてるの?」
雲は少し考えてから答える。
「風まかせ。でも、“風を感じる”って、案外大事なのよ。止まってると、何もわからないから」
ミラが空を見上げた。
「僕たちもそうかもね。動きながら、何かを見てるのかもしれない」
「そのとおり!」とサンが叫んだ。「だから今度からは“のんびり寝転ぶこと”を、空の観察って言い張るからな!」
「それはただのサボり」とルナが即座に斬る。
空には、ゆっくりと流れる雲。
どこへ行くかは、風だけが知っている。
……でも、たまには立ち止まってくれることもある。




