第六十三話 重力のくつろぎ方
朝のヒカリ荘。玄関の引き戸が、ギギギ……と重たそうに開いた。
「おーい、誰か〜。ちょっとドアがきつかったぞ〜」
現れたのは、どっしりとした巨体の男。空の親戚、木星――モクである。
「うわっ、地震かと思った……!」とトキオ。
「いや、これは安定感……!」とミラが目を輝かせた。
「久しぶりね、モク」とルナが笑う。
「うん〜、最近ちょっと気が抜けてさ。ヒカリ荘でゆっくりしたくなったんだ〜」
モクがソファに“ドスン”と座ると、家具がギシリと悲鳴をあげた。
「重力ってさ〜、たまには心にもいい影響あると思わない?」
「いや、ないだろ!」とサンが突っ込む。
「重いってことは、ちゃんと存在してるってことなんだよ〜。質量って、案外安心感になるんだよねぇ」
トキオが真顔になる。
「モク兄さん、重力って結局どうやって生まれてるの?」
モクは湯呑みを持ち上げながら答えた。
「簡単に言えば、質量があると、空間がちょっとだけへこむんだってさ。で、そこに他のモノが転がり落ちる。……それが引力らしいよ〜」
「“らしい”のかよ!」
ミラがくすくす笑いながら、モクの隣に座る。
「でも、なんか落ち着くなあ。モクがいると、ここがちょっとだけ“中心”になる感じ」
「お〜、そりゃ嬉しいね〜。引っぱれてる実感ある〜」
そのとき、足元にふわっと猫たちが現れた。
「にゃー」
猫の蒼と、翠がモクの足元に丸くなる。
「おぉ、今日もそろってるねぇ。いいねぇ、ちっちゃいのに安定感ある」
「おまえに言われたくはないだろうけどな!」とサンが笑う。
そのまま、モクのゆったりした声がだんだん小さくなり、静かな寝息がリビングに響いた。
太陽の光、星たちのざわめき、モクの重さと猫のぬくもり。
この朝のヒカリ荘は、少しだけ“引き寄せられていた”。




