第六十話 天王星の視点
ヒカリ荘の廊下で、テンがぼそっとつぶやいた。
「……なんでオレだけ、横向いてんだろな」
ルナが紅茶を片手に通りかかる。
「また“自分の軸”に悩んでるの?」
「そりゃあな。天王星だけ、ほぼ真横に寝転がって回転してるんだぞ? 地味にコンプレックスだろ」
ミラが顔を出す。
「でもそれ、ちょっとかっこよくない? “我が道を行く”感あって」
テンは肩をすくめた。
「いや、本人としては“行こうとしてる道が、寝っ転がってるだけ”なんだけどな」
ヒカルも加わる。
「でもさ、天王星って“横向きに自転”してるから、極地が昼夜の境目になるんだよね。つまり、北極とかが“昼”になったりする」
「そうそう、季節も地球より極端なんだよね。1シーズン40年とか」
テンがめんどくさそうに言った。
「40年って……人生一周終わってんだよなぁ」
サンがやってきて、テンの背中をバンッと叩く。
「でも、それでこそテンらしいじゃん! クセあっても宇宙の一員!」
「おまえが言うと、うるささ倍増だな……」
ミラがふと聞いた。
「テンって、誰かに“ちゃんと見てもらえてる”って思うことある?」
テンは少しだけ黙って、ぽつりと答えた。
「……見えにくい星だからこそ、気づいてくれる人がいたら嬉しいんだよ」
ルナがそっと紅茶を差し出した。
「じゃあ今日は、ちゃんと見てるわ。ほら、温かいうちに飲んで」
テンはぶつぶつ言いながらも、紅茶を一口。
「……悪くない。少しだけ、自分の軸が立った気がする」
その日、ヒカリ荘には、少しだけ“斜め上の視点”が流れていた。




