第五話 星たち、夜空をジャックする
「ねぇ兄ちゃん、夜空ってさ、もうちょっと“演出”したほうが良くない?」
夜のヒカリ荘。星三兄弟の真ん中、トキオがスマホをいじりながらぼやいた。
「SNSの反応、最近いまいちなんだよね。“今日の夜空、地味”って」
「それは君が検索してるのが“自撮り映え”のタグばかりだからだよ」と、長男ヒカルが呆れ顔。
「ミラはね……もうちょっと“キラキラさ”が欲しいと思うの」
末っ子ミラまで便乗してきた。
こうして始まったのが、“勝手に夜空演出プロジェクト”。
三人は勝手に流れ星のスケジュールを増やし、星座の配置を変更し、さらには月のまわりに光る「フレアエフェクト」までつけてしまった。
結果――夜空、大混乱。
「北斗七星が逆向き」「オリオン座が腕組んでる」「UFOが混じってる気がする」など、地上の天文ファンたちがざわつき始める。
怒鳴り込んできたのは、もちろん月だった。
「あなたたち……夜空を“ジャック”したつもり? これは天体芸術への冒涜よ」
「でも反応よかったよ!“#空フェス”でトレンド入りしたし!」
「“よかった”の基準が……ねぇ」
太陽も起きてきて、寝ぼけ眼で首をかしげる。
「てかさ、おまえら、何時まで起きてたんだ?」
「……今も起きてるけど……いつから起きてたんだろ……?」
自分たちのテンションに呑まれた星たちは、静かに沈黙した。
その夜の夜空は、ちょっとキラキラしすぎたけれど。
翌日にはちゃんと元に戻っていた。
そして星たちは、月に課せられた罰として――
「夜の静寂三日間」
という名前の“夜ふかし禁止令”を言い渡されたのであった。