第五十話 月の裏側、知ってる?
夜のヒカリ荘。
ソファに寝転んだサンが、ぼんやり月を見上げてつぶやいた。
「月って、いつもこっち向いてるよなぁ……あれ、不思議じゃない?」
「それ、よく言われるわね」とルナ。
ヒカルが乗ってきた。
「それ、“潮汐ロック”って現象によるものだよ」
「ちょうせき……?」
「潮の“汐”って書いて、“ちょうせき”。地球の重力が、月の自転と公転をぴったり同期させてるんだ」
「つまり、月は地球のまわりを回ってるけど、自分も同じスピードで回ってるってことね」とトキオ。
「そう。だから、いつも同じ面を地球に向けてる。反対側の“裏側”は、地球からは一度も見えないんだ」
「ロマンね……」とミラがぽつり。
ルナは紅茶をすすりながら言った。
「でも“裏側”って言われると、ちょっとかわいそうよね。私からすれば、あれも“私の一部”だもの」
「たしかに」とサンが笑う。
「たまにはぐるっと回って“今日は裏側DAY”って見せてくれてもいいのに」
「それは……ちょっと恥ずかしいかも」とルナが目をそらす。
ヒカルがノートを閉じて言った。
「ちなみに月の裏側は、表よりクレーターが多くてゴツゴツしてるんだって」
「え、なんで?」
「地球の引力で守られてない分、隕石の直撃を受けやすいから」
ルナが小さく笑った。
「私、けっこう頑張って“盾”になってるのね」
ミラが空を見上げる。
「じゃあ今日も、私たちは見えない誰かに守られてるんだね」
その言葉に、少しだけ静けさが落ちた。
けれどサンは、いつもの調子で言った。
「いや~オレが一番守ってるけどな、毎朝みんな起こしてるし!」
「寝坊もしてるけどな」とトキオが即座にツッコミを入れた。
そんなヒカリ荘の夜。
見えない月の裏側に、そっと想いを馳せる、そんな時間だった。




