第四話 お天道さま、曇る
その日、太陽は照らさなかった。
空は朝から分厚い雲に覆われ、ヒカリ荘も、どことなくしんとしていた。
「……サン、起きてないの?」
月がリビングに顔を出すと、テーブルの上には冷めたコーヒーが一杯。
いつも一番に目覚めて、誰より明るいあの男が、今日は布団から出てこない。
「なんかあったの?」
三兄弟のヒカルが聞いたが、ミラがぽつりとつぶやいた。
「……昨日、人間の子どもに“日差しって迷惑だよね”って言われたの、聞いちゃったみたい」
誰かを照らそうとして、誰かの眩しさになってしまった。
それが、太陽の胸に引っかかったのだ。
月は太陽の部屋の前に立ち、ドア越しに声をかけた。
「……サン、曇ってもいいじゃない。あなたの光は、無理して出すものじゃないわ」
返事はない。けれど、しばらくしてふわりと雲が割れ、
薄日が差し込んできた。
「……まぶしくなくて、ちょうどいいかも」
星たちがそう言って笑った。
太陽はようやくリビングに顔を出し、ぼさぼさの髪で照れ笑いした。
「いやー、ちょっとオーバーヒートしてたわ。お騒がせ~」
「照らすこと」に疲れる日もある。
それでも戻ってきてくれるのなら、それでいい。
その日、空は一日じゅう“うすく晴れ”。
やさしい色をした午後だった。