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第四十七話 まいごの音符
その日、ヒカリ荘にいつになく静かな空気が流れていた。
「なんか……今日は音が足りなくない?」
サンが天井を見上げながらつぶやく。
ルナは首を傾げる。
「音? 何か、聞こえないものでも?」
「うーん、いつもなら、もっと小鳥が鳴いたり、風が揺れたり……」
「気のせいじゃないの?」とトキオが新聞から顔を上げた。
「いや、オレも少し思ってた」とヒカルがうなずく。
「さっきから、空気が妙に“無音”って感じ。いつもなら、何かしら雑音あるのに」
ミラは紅茶を手に、静かに言った。
「音符が、まいごになってるのかもね」
「……なんだその詩的な理論」とトキオ。
ちょうどその時、風がヒュッと吹き抜け、カーテンを揺らした。
チリン、と風鈴が鳴る。
その一音に、全員が顔を上げた。
「……あ、いた。まいごの音符」とサンが笑う。
「なんだ、風の気まぐれか」とルナも微笑む。
ヒカルはメモに「風鈴の音は、空気の存在を実感させる」と書きつけた。
ミラはそっと目を閉じて、耳を澄ませる。
「たまには、“静けさ”って音もあるんだよね」
ヒカリ荘に、やさしい音が戻ってきた気がした。




