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第四十五話 午後ティーと、やさしい沈黙
ヒカリ荘のリビングに、あたたかな光が差し込んでいた。
ミラが湯気の立つ紅茶をそっとテーブルに置く。
「午後って、ちょっとだけ優しくなれる時間だと思わない?」
「おいおい、午前中から優しくしてくれよ」とサンが笑う。
トキオは新聞を読んでいたが、ちらりと目を上げて言った。
「でもまあ……午後は確かに、空気がやわらかいかもな。さっきから蝉の声も静かになってるし」
「きっと、空が少しだけ休憩してるのよ」とルナがカップを口に運ぶ。
ヒカルはスコーンに蜂蜜を塗りながらぼそり。
「脳波的にも午後のほうがリラックスしやすいらしいよ。副交感神経優位ってやつで」
「だからってその情報をスコーンにかけるな」とトキオがすかさず突っ込む。
サンは大きく伸びをしてから、ぽつりとつぶやいた。
「……なんか、いいな。こんな午後も」
誰も続けようとせず、ただカップの音だけが静かに響く。
ミラがにこっと笑って言った。
「午後って、しゃべらなくても、あったかいよね」
誰も否定しなかった。否定する必要もなかった。
ヒカリ荘の午後は、ことばのない会話で満ちていた。