第四十二話 ちょっとだけ、泊まらせて
ヒカリ荘のドアが、こんこん、と軽く叩かれた。
「流れ星でーす! 一泊二日でー!」
ドアを開ける前から声が聞こえてくる。金色のスーツをひるがえして現れたのは、いつもの“配達員”——流星だった。
「なんで泊まる気満々なのよ……」と、ルナが呆れた声を漏らす。
「いやさ、今日の夜空めっちゃ混んでてさ~。願いも多くて、ほんと無理。休憩! あと、サンのカレーが恋しくて!」
「おまえ、仕事中だろ」とトキオがツッコむ。
それでも流星は、ずかずかと上がり込み、テーブルに願いごとの束を広げた。
「“あの人に振り向いてほしい”“宝くじ当たれ”“もう一歩だけ前に進みたい”……今日も相変わらず色々だね」
「全部、届けたのか?」とヒカルが尋ねる。
「もちろん。“届けるだけ”はプロだから。叶えるのは、本人の問題」
流星は、肩をすくめながらも目を細めた。
「でもさ、たまにあるんだ。こっちが心動かされる“本気”の願い。そういうのって……なんか、ちょっとだけ、止まりたくなるんだよね」
その言葉に、ミラがふと顔を上げた。
「流星は、優しいね。儚いけど、ちゃんと見てるんだね」
ルナはため息をつきつつも、空いていた座布団をぽんと叩いた。
「仕方ないわね、今夜だけよ」
「やったー! あ、じゃあお風呂入ってくる!」
嬉々として走っていく流星を見ながら、サンが苦笑する。
「ほんとアイツ、風みたいなやつだな。どこかで止まったかと思えば、すぐどっか飛んでく」
「でも」とヒカルがつぶやく。「夜空には、ああいう“一瞬”が必要なんだよ。見上げる人の心を揺らすために」
ヒカリ荘の今夜は、少しだけ騒がしくて、ちょっとだけあたたかい。




