第四十話 午後三時、ちょっとだけ上品に
ヒカリ荘のリビング。午後三時ちょうど。
月はいつものように、紅茶のカップを静かに揺らしていた。
「ふう……この時間は、何にも邪魔されたくないのよね」
その向かいで、ミラがクッションにすっぽり座って、じっと見ている。
「ミラもね、今日だけは“おとなのおやつ時間”にしたいの」
「どういうこと?」
「ふだんはおせんべいとかポテチなんだけど、今日は“レモンタルト”にしてみたの」
お皿の上に、やや大きめのタルトがひとつ。クリームがきれいに巻かれている。
「見た目は悪くないわね」と月。
「でもね……ちょっと食べたら、すっぱい!!」
ミラの顔がくしゃっとなった。
「それ、レモンの良さじゃない。しっかりしてる証拠よ」
「月みたいだね」
「……どういう意味かしら」
「すっぱいけど、あとから甘くて、香りがのこるの」
「……それ、褒めてるのよね?」
そのとき、サンが勢いよくドアを開けた。
「おっ、なんかティータイムか!? 俺もコーヒーとどら焼き持ってくる!」
「……帰れとは言わないけど、音量は控えて」と月。
ヒカルとトキオもそれにつられてやってきて、
なぜかヒカリ荘は、ちょっとにぎやかな“午後三時の喫茶室”になった。
たまにはいいか、こんな日も。
午後の光がちょっと上品に差し込む中、紅茶の香りがふんわりと広がっていた。




