第三十七話 風鈴の声は、ガラスか金属か
その日の午後、ヒカリ荘の屋上に、サンがご機嫌で登場した。
「じゃーん! 今日の主役はこれ! 夏といえば風鈴でしょ!」
サンの手には、いくつかの風鈴がぶらさがっていた。
ガラス、金属、陶器、そして竹製のものまである。
「……屋上に並べる気?」とルナが冷静につっこむ。
「ヒカルが“音の違いに意味がある”って言ってたから、気になってな!」
「意味って、たとえば?」とトキオ。
ヒカルがノートを開いて説明する。
「ガラス製は、涼やかで高い音が鳴る。金属製は、もう少し硬質でシャリッとした音。
陶器のはちょっと鈍くて、落ち着いた音。竹製は“カランカラン”って、和風で優しいんだ」
「つまり、全部“声”が違うってことなのね」と月。
ミラが、ガラスの風鈴の前に座って、じっと耳をすます。
「この音はね、“誰かがそっと近くに来た”みたいに聞こえる」
翠がその横を通り、ガラスの風鈴を軽く鳴らした。
カラン……と小さく、空の音がこぼれた。
蒼が金属の風鈴の下で丸くなり、そっとしっぽで台を揺らす。
シャリン……と冷たい響きが、ゆっくりと流れる。
「どの音が好き?」とヒカルが尋ねると、ルナが迷いなく答えた。
「……“その日の気分で違う”わ。音って、そういうものよ」
「ミラは、どれも好き。風鈴の音が聞こえると、“夏が来た”って思えるから」
そのとき、まひろちゃんの家の軒下でも、風鈴が小さく鳴った。
あきらくんが、音のする方をじっと見つめる。
まひろちゃんが、その音に合わせてぽつんとつぶやく。
「おそら、しゃべったね」
風鈴は、空の声かもしれない。
今日もいちばん暑い時間を、少しだけやさしくしてくれる音だった。




