第三十四話 まひろちゃん、空の声をひろう
その日、まひろちゃんは庭に置かれたビニールプールに足をひたしていた。
「おそら、あっついねぇ……」
横であきらくんが、ばしゃばしゃと水をはねる。
そのとき、風がふわっと通り過ぎて、空からなにか聞こえた気がした。
――ぽやん、とした、だれかの笑い声。
――それから、「……また来てるな、まひろちゃん」っていう、どこかの声。
「……おそらが、しゃべってる?」
まひろちゃんはびっくりしたけれど、うれしくなって、両手で水をすくいながら答えた。
「まひろも、きょうはヒマだから、そっちのばしょ、いってもいい?」
もちろん返事はなかったけど、空のうえでは、ちゃんとその声が届いていた。
「……届いた?」とヒカルが首をかしげる。
「たぶんな。“なんとなく聞こえた気がする”って、いちばん不思議な通信方法だからな」とトキオ。
「ミラはね、“空の声”って、たまに子どもにだけ届くって思ってるの」
月が紅茶をそっと置いてつぶやいた。
「子どもって、“まだ空と近い”のよ。
忘れちゃうだけで、きっとみんな昔は聞こえてた」
そのとき、蒼と翠が屋根のうえから地上を見ていた。
まひろちゃんが、小さく手を振った。
猫たちは返事をするように、しっぽをふたつ、ふりふり。
まひろちゃんはにこっと笑って、またプールに足をひたす。
たぶん、気のせい。
でも、ちょっとだけ確かな気もする。
そんなふうにして、空と人は、今日もそっとつながっている。




