第三十一話 ひきだしには、なにがある?
ヒカリ荘のキッチンのすみに、ずっと誰も開けていない引き出しがあった。
「……これ、なに入ってるんだっけ?」
トキオが指差すと、ヒカルが首をかしげた。
「調味料じゃなかったっけ?」
「いや、前に開けようとしたら、なんか“ざらざら”って音がしたんだよね」
「ざらざら……?」
「それって、星砂?」とミラが興味津々でのぞきこむ。
太陽が得意げに割って入った。
「よし、ここは俺に任せろ! 30話分の勇気、いま発揮する!」
「それ、さっきの記念回ひきずってるでしょ」と月が冷静に突っ込む。
ごそっ。
ゆっくり引き出しを開けると、中には……紙の束。手紙? と思ったら、全て“未提出の買い出しメモ”だった。
「これ……全部“そのうち買おう”って言って、買ってないやつだ……」
「“バニラアイス”とか“雲形パスタ”とか、“宇宙の香りの芳香剤”って何!?」
「“空の味がするプリン”とか、“夜のにおいがする柔軟剤”とかもある……!」
「空、自由すぎるだろ……」
ミラが、そっと一枚を手に取って言った。
「でもね……“そのうち”って、未来のたのしみみたいで、好き」
「確かに、“今じゃない”っていう余白があると、なんか安心する」とヒカル。
「それに、誰かが忘れてたことを、みんなで見つけるって、ちょっといいな」
太陽がまとめにかかる。
「つまり今日わかったのは、“引き出し”ってのは、“思い出の仮置き場”ってことだな!」
「うまいこと言った風だけど、たぶんそれ、プリンを買い忘れただけよ」と月。
その日、ヒカリ荘の食卓には、なぜか“普通のプリン”が並んだ。
たぶん、“空の味”はしなかったけど――
なんとなく、未来の味がした。




