表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/151

第二十八話 ミラ、音をひろう

 その日、ヒカリ荘の屋上で、ミラはじっと耳をすませていた。


「なにしてんの?」とトキオが聞くと、

 ミラは小さな声で答えた。


「音を……ひろってるの」


「え、なにその詩的な行動」


「ミラはね、夏って“静かな音”がたくさん隠れてると思うの」


 たとえば、風鈴のゆれる音。

 蚊取り線香の、しゅう……という煙の音。

 誰かが冷蔵庫を開ける音、アイスの包みを破く音。

 遠くで誰かが笑う声。


 月が微笑む。


「そういう音って、夜になるとよく聞こえるのよね。

 光が少ないぶん、耳が冴えるのかも」


「……夏の夜は、聴覚で感じる季節かもな」とヒカル。


「オレは、かき氷のシャリシャリが好き!」


「ミラは……虫の声。

 うるさいのに、なんでか“うるさくない”気がするの」


 太陽がのびをしながら言った。


「そういや、人間界じゃ“蝉の声=夏の代表”って感じらしいな」


「蝉って、7年くらい土の中にいて、出てきたら1週間で死んじゃうんだよね……」とトキオ。


「じゃあ、あの声って“全力の命の音”なんだ……」


 みんなが、しばらく静かになった。


 そのあと、どこからともなく、小さな蝉の声が聞こえた。


 誰も何も言わずに、それを聴いた。


 音があるということは、誰かがそこに“いる”ということ。

 ミラは、それをひとつずつ、胸の奥にしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ