第二十七話 あつい日には、空もぐったり
ヒカリ荘、午後二時。
空は真っ青。蝉の声が、空気をぎゅうぎゅうにしていた。
「……なあ、今日、暑すぎじゃね?」
太陽がつぶやくと同時に、トキオがアイスを顔に当てながらうなだれた。
「アツすぎて脳が考えるのを拒否してる……」
「“脳の自衛本能”ってやつだね」とヒカル。
ミラはレモン水を持ったまま、ソファで半分とけていた。
「ミラはね……今日は“ひんやりした言葉”だけで会話したいの」
「じゃあ、しゃべるときに“氷”とか“風鈴”とか入れる?」
「風鈴の音で思考を冷却中……しばらくお待ちください……」
そこへ月がひょっこり現れた。扇風機を抱えている。
「冷房は? と思ったけど、これがいちばん身体に優しいらしいわ」
「おまえ、絶対どっかで読んだだろ」
「“夏の夜は、弱風の扇風機と文庫本がいちばん”って言ってたのは、誰だったかしらね?」
みんなで扇風機の風に当たりながら、何もしない時間が流れていく。
「……てか、“暑くてだるい”って、地上の人間もこんな感じなんだろうな」
「うん。きっと今ごろ、まひろちゃんも麦茶飲みながら床でゴロゴロしてる」
「ミラはね、それも“夏らしさ”だと思うの」
空は、ぴたりと動きを止めたように、静かだった。
でもそれでいい。
“がんばらない空”があったって、かまわない。
あつい日は、空だって、ときどきぐったりする。




