第二十六話 七月七日、星の下で
七月七日、夜。
ヒカリ荘の屋上テラスには、静かな空気が流れていた。
星たちは珍しく、ふざけずに夜空を見上げていた。
「……今日、なんの日だっけ?」
「七夕だよ。地上でいちばん、星が見られる日」
「ミラはね、短冊のこと、思い出す」
そのとき、流れ星便がふわりと舞い込んだ。
中にあったのは、小さな手紙と、細長い紙片。
「“まひろより”って書いてある」とヒカル。
「ことしは、たなばたにおねがいしました。
“あきらくんと、ずっといっしょにいられますように”」
字はつたなく、ところどころに絵も描かれていた。
あきらくんが笑っている。その横で、まひろちゃんが手を伸ばしていた。
月が手紙をそっと閉じて言った。
「人間は、会いたい人に会えない夜を、願いで埋めようとするのね」
「織姫と彦星の話も、もともと“会えない時間の尊さ”だもんね」とトキオ。
「ミラはね、星が見えるだけでも、もうすこし安心できると思う」
太陽がぽつりと言った。
「……なんか、照らしすぎるのも悪い気がしてきた。
オレが沈むと、みんな“会いたい人”を思い出すのかもな」
「沈んでくれるから、願えるのよ」と月がやさしく返した。
その夜、まひろちゃんの部屋から見えた空には、天の川がうっすらとかかっていた。
彼女の短冊は、窓辺でゆらゆらと揺れていた。
まだ言葉にならない願いも、空はちゃんと見ている。
七月七日。
空と地上が、いちばん近くなる夜。




