第一話 朝のコーヒーは、熱すぎて
朝五時。
ヒカリ荘のキッチンから、香ばしい香りが立ちのぼる。豆から挽いたコーヒーだ。
これを淹れているのは、他でもない――太陽である。
「よし、今日も完璧な一杯だ!」
湯気をのせて自信満々にカップを並べる太陽。その脇で、月が静かに眉をしかめた。
「……湯気どころか、陽炎が出てるわよ。それ、飲み物というより、もはや武器。」
「いやいや! この熱さが目を覚ますんだって! なあ、星たちもそう思うだろ?」
「せーの、思いませーん!」
三人組の星たちが声をそろえる。長男ヒカルは腕を組み、次男トキオはスマホで温度を測り、末っ子ミラはすでに氷を浮かべていた。
「これ、表面温度……八十七度って出てるよ? 舌、焼ける。」
「データって冷たいなぁ……」
落ち込む太陽の肩に、そっと月が手を置く。
「あなたの気持ちは、ありがたくいただくわ。でも、飲むのはもう少し冷めてからにしましょう。」
その言葉に、太陽はほんのりと赤くなった。いつもより、少しだけ控えめに。
「……ったく。おまえら、冷たいけどあったかいよな。」
「それ、どっちなんだよ。」
三兄弟がツッコミを入れ、台所に小さな笑い声が広がった。
今日の空は、ちょっとだけやさしい青。
――ヒカリ荘、朝のコーヒーは今日も熱すぎたけれど。
そんな日常が、けっこう悪くないと思う。