第十七話『恋、観測中』
夜のヒカリ荘。屋上テラスに並んだ三つの小さな影。
「おっ、あの子、手紙渡したぞ」
「渡したー! 渡した瞬間、めちゃくちゃ曇ったー!」
「照れくささで気圧落ちた説!」
そう、星三兄弟は今、“地上の恋バナ観測”をしていた。
人間たちのあいだで起きる、告白、すれ違い、手紙、プレゼント――
望遠星鏡を使って、夜空の特等席からこっそり見守っているのだ。
「今日は中学生っぽいカップルが多いね。春の告白ラッシュ終わって、秋の“しっとり恋”シーズンだよ」
「ミラは……“静かな片想い”が一番エモいと思うの」
「てかこのふたり、会話してるのに目を合わせてない! 青春だなぁ……!」
そこへ月がやってきた。手に紅茶。
「また恋の盗み見? マナー違反じゃないかしら」
「いやいや、“感情の観測”です! 学術目的!」
「人間たち、恋してると空よく見上げるんだよ。星って、そのときだけ視線もらえるからさ」
月は苦笑しながら、空を見上げた。
「……確かに、“夜に見上げるもの”って、たいてい何かを想ってるときよね」
そのとき、ミラがぽつりとつぶやいた。
「でもさ……私たちは“想われてる側”だけど、想うことってできるのかな?」
星たちは、少しだけ黙った。
「……誰かの恋を応援することで、自分も誰かに恋してる気になれる」
ヒカルがそう言って、小さく笑った。
テラスの上、夜空は今日もたくさんの“視線”を受け取っていた。
星たちは、光りながら、そっと恋の行方を見守っている。