第十五話 空から見える、あなたの手紙
ある夜。ヒカリ荘のポストに、一通の封筒が届いていた。
「……あれ? 今日、流れ星便来てたっけ?」
トキオが首をかしげる。宛名はなく、差出人の欄にも何も書かれていない。
「もしかして、“迷い手紙”かもしれないわね」と月。
ごくまれに、流れ星便が“宛先不明”の手紙を拾ってしまうことがある。
届けられない願い、行き場のない祈り、書いたまま出されなかった想い――そうした手紙が、空の住人たちのもとに紛れ込むのだ。
月がそっと封を切り、中を読む。
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「空の誰かへ」
小さいころから、空を見上げるのが好きでした。
悲しいとき、うれしいとき、誰にも言えないとき、
私はいつも、空に話しかけていました。
届かないって、わかってる。
でも、それでも、話したかったんです。
ただ、“聞いてくれている”気がしたから。
ありがとう。誰かなんて、知らないけど。
私はもう大人になるけど、これだけは伝えたかったんです。
“いつも、空がそばにいてくれてありがとう。”
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しばらく、誰も何も言わなかった。
「……名前もない、でもすごくちゃんと届いてるね」
ミラがぽつりとつぶやいた。
「“空に話す”ってさ、たぶん本気で話すってことなんだよね」とトキオ。
「答えがない相手に話せるって、強さだよな」とヒカル。
太陽は腕を組んで、照れくさそうに笑った。
「……まあ、オレも、毎日誰かに照らされてる気がしてるからな」
月がそっと封筒を閉じた。
「この手紙、誰にも返事は書けないけど――ちゃんと受け取ったことにしましょう」
その夜、空はとても静かだった。
何も変わらないようでいて、ほんの少しだけ、世界がやさしくなった気がした。




