第百三十九話 ちかくて、とおい
「君たちは、“近さ”とは何か、考えたことがあるかい?」
ギンガ荘の談話室にて。アルファ・ケンタウリは、唐突にそんな問いを投げかけた。
サンとヒカルが顔を見合わせる。
「えーっと……地理的な話?」
「まあ、たとえば“地球にいちばん近い恒星系”って、ケンタウリさんたちだもんな」
「ふふ、それは物理的な意味では正しい。だが私は、距離とは心の在り方でもあると思うのだ」
哲学だ。また始まった。
アルファ・ケンタウリは複数の星からなる恒星系。会話もときどき“多重”でややこしい。
「わたしたちが隣人であるということ。それは光年では語れない関係性だと思うんだ」
「たしかに、となりの部屋でも心が遠いときあるよなぁ……」と、ミラがぽつり。
「ある意味、哲学的ですねぇ」とルナも興味津々で耳を傾ける。
「では君たちは、隣人のことをどれほど知っている? たとえば――“太陽”という存在を」
サンが一瞬、むせた。
「い、今さら!? めっちゃ知ってるし! ヒカリ荘の主役だぞ、俺は!」
「うむ、たしかに。だが、“まぶしすぎる光”の奥に、何があると思う?」
トキオが小声で「深掘りしてくるぅ……」とつぶやく。
アルファ・ケンタウリは、今日も“近いようで遠い”思索の旅を続けていた。
そして最後に、こう付け加えた。
「距離を縮めるには、まず“問い”を向けることだ。……私はそう思っているよ」
その言葉は、ヒカリ荘の皆の心に、静かに灯った。




