第十四話 星座の引っ越しシーズン
秋の風が吹きはじめたヒカリ荘。
空がほんの少し、ざわざわしている。
「うーん……北の空がにぎやかだと思ったら、引っ越しか」
太陽が窓から外を見ながらつぶやいた。
「え、星って引っ越すの?」とトキオが飛びつく。
「そう。季節が変わると、“見える星座”も変わるのよ」と月。
「うわー、やっぱり空ってでっかいマンションなんだな……」とミラが感心してる横で、ヒカルがメモ帳を開いた。
「春はしし座、夏はさそり座、秋はペガスス、冬はオリオン……見える星座は“季節の星座”って呼ばれてるんだ」
「みんなで交代制なんだ! めちゃくちゃ日本的!!」とトキオが変な感心をしていた。
そのとき、荷物をかかえたペガスス座が雲の上を通り過ぎていく。
「どーもー! 秋担当でーす! ちょっと広めの空域、いただきまーす!」
「ちゃんと時間通りに来るあたり、さすがは星座」
月は紅茶をすすりながら静かに言った。
「でも、ほんとうは“地球のまわりを回っている”のは、星じゃなくて――私たちなのよ」
「……あっ、そっか。見えてる星が動いてるように感じるのは、“自分が動いてるから”か」
「人間と同じだね。立場が変わると、見えるものも変わるってことかも」とミラ。
その夜、ヒカリ荘の屋根に寝そべった星たちは、少しだけ涼しくなった風を感じていた。
「……空の上も、ちゃんと“季節”あるんだな」
それぞれの光が、それぞれのタイミングで空を彩る。
ヒカリ荘の住人たちもまた、小さな季節の変わり目を迎えていた。