第百三十八話 ゆれる星の鼓動
ベテルギウスは、大きな大きな星だった。
ギンガ荘のラウンジにどっかりと座って、目を閉じて呼吸を整える。時折聞こえる「ドン……ドン……」という音は、彼の鼓動。恒星のリズムだ。
「ねえベテルギウスさんって、いつ爆発するんですか?」
子どもたちの無邪気な質問に、彼はいつも困った顔で笑う。
「……まだ、大丈夫だと思うよ。たぶん」
自分でも正確にはわからない。いつ終わりが来るのか。それは星の誰にも決められない。
ある日、ヒカリ荘のサンが遊びに来た。リゲルと筋トレ談義をした後、ベテルギウスの隣に座った。
「ベテ。元気か?」
「うん。たぶんね」
ふたりはしばらく空を眺める。そこには何もないようで、たくさんのものがある。
「俺、たまに思うんだ。もしも突然消えたら、誰か泣くかなって」
「……泣くよ。絶対に」
サンはきっぱりと答えた。
「お前がいなくなったら、空に“あの場所”がぽっかり空くだろ? そしたら絶対、誰かが“ここに星がいた”って言うさ」
ベテルギウスは、ほんの少しだけ目を細めた。彼の鼓動が、静かに響いた。
「ありがとう。……そうだね、まだ輝いてみるよ」
そしてその夜。ギンガ荘の窓から見えたのは、いつもより少しだけ赤くて、やさしい光。
それは、終わりではなく――彼が「今を照らす」と決めた光だった。




