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第百三十二話 月の光と、買い物リスト

ヒカリ荘の朝。

まだ静けさの残る時間帯、ルナは珍しく手帳を開いていた。


「……アールグレイの残り、あと二杯分ね。香炉用の白檀も補充しないと」


彼女の字は、整っていて美しかった。

今日の予定は「月用品」の買い出し――いわば、月の儀式に必要な品々の調達である。


「買い物なんて久しぶりじゃない? ついでに人間界でスイーツでも?」

声をかけたのはミラだった。くるくる回るリボンのように、今日も自由だ。


「……甘いものは苦手なの。私は香りと静けさだけで充分」

ルナはそっけなく答える。


だがその手には、“焼き菓子3種セット”のクーポンがしっかり握られていた。



ふたりは空路を抜けて、星のマーケット街へ。


月専用ブースには、銀色のティーポット、幻想的な香草、透明な紙でできた詩集などが並んでいる。


「ルナさん、今夜用の“光のしずく”できたよ〜」

常連の店主が、壜を手渡す。


「ありがとう。ちょうど切れていたところ」


そこまでは完璧だった。


問題は――


「このティーカップ、見てミラ。……似合うと思わない?」


「わっ、ルナが物欲っぽいこと言った!」


「ち、違うわ。これは詩的な意味で……そう、月の器としての……」


結局、ティーカップは3客ほど買われた。


そして帰り道。


「あのクーポンの店、まだやってるかしら?」


「ルナ……甘いもの、嫌いじゃなかったの?」


「……今日は満月じゃないから。テンションが通常運転なの」


そう言ってルナは、そっと笑った。


月の光のように控えめに。

けれど、確かに心から嬉しそうに。

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