第百三十一話 くも、くも、くも
「……また寝てる」
朝の時間テラスにて、サンが肩を落とす。
ごろごろと寝転ぶ白くてふわふわな生き物――それが、雲の精たちだった。
「おーい、そろそろ空模様のシフト変えろって言っただろーが!」
「ん〜……やぁだぁ〜……いま夢の中で、虹とかけっこしてるのぉ……」
「それ、実際より速ぇな!!」
あっちでぐうぐう。こっちですやすや。
しかも、一体は空に絵を描きながら寝ている。
「ちょ……誰だよ、空に“焼きそば”って書いたの!!」
「ぼく〜。おなかすいてた〜」
「理由がダメすぎる!!」
ルナが紅茶をすすりながら、あきれ顔で言う。
「雲たちって、どうしていつも“雲の上”で寝てるのかしら。地上よりやわらかいってこと?」
「それ、比喩的にどうなんだ……?」
そこにふらりとミラがやってきた。雲の中に顔を突っ込むと、ぽつり。
「ここ、やさしいにおいがする……」
「なにそれ! 嗅ぎたい!」とトキオも突撃。
「ミラの言う“におい”って、たぶん“感情の湿度”のことだよ」とヒカルがつぶやく。
そんな中、どこからか、モクモクと黒い雲。
「え?誰?起きてたの?」
「やるときはやる……それが、くもの精……」
どよ〜ん、とした顔で黒雲が一言。
なんか全体的に湿っている。
「梅雨か!?いや梅雨なのか!?」とサンがツッコんだそのとき、
ぴかーっ☀️
空がいきなり晴れた。
「……なんで?」
「なんか、夢でサンが焼きそば作ってくれて……起きたら元気出た〜」
「夢効果かい!!」
そんなふうに、今日も空の天気は――雲の気分しだい。
だが最後に一言。
「でもさ、誰も見てないときに、ちゃんとみんなの空つくってるんだよね」
ミラのその言葉に、誰かがうなずいたような、ふわりと風が通ったような。
雲の精たち、今日もぐうぐう。だけど、ちょっぴりがんばってる。




