第百二十話 アーチェ、的を射抜け
弓道場には、今日も朝一番にアーチェの姿があった。
「よし、今日こそ!」
誰もいない静寂の中で、矢をつがえる。
狙うは百本目の連続的中。
――記録達成目前で、昨日外した一射。その悔しさが、まだ胸の奥に残っていた。
「射るのは“的”じゃない。昨日の私だ」
そんな言葉を、自分自身に投げかける。
* * *
そこに現れたのは、体育担当のサン先生。
「よぉ!今日も飛ばしてんな、いて座!」
「サン先生……見ててください。今日は――決めます!」
「その意気だ。熱くなりすぎて燃えるなよ? おまえ、射手じゃなくて火の精になりそうだからな!」
アーチェは笑った。
そして、深呼吸。静かに、構える。
一射――的中。
二射――的中。
……そして――
百射目。
時が止まったような静けさの中、矢が放たれた。
* * *
「……当たった」
ぴたりと中心に刺さる矢。
その場でくるりと振り返り、ポーズを決めるアーチェ。
「任務完了っ☆」
「おい、誰がポーズつけろっつった! でも……よくやったな」
サン先生が笑って、親指を立てる。
「ありがとう、先生。でもこれはまだ――旅の途中なんです」
目標を射抜きながらも、もっと遠くを見据える。
いて座の矢は、夢という名の星へと向かって飛んでいた。




