第十一話 虹、ひとやすみ
ある日の昼下がり。ヒカリ荘に一本の“光の橋”がかかった。
「うぃーっす! にじ、参上〜☆」
雲をかきわけ、ド派手な服ときらめく髪をなびかせたのは――七色の旅人、虹。
雨と太陽の合い間だけに現れる、ちょっとレアでちょっとチャラい空の住人。
「久しぶりじゃない」と太陽。
「相変わらず、キラキラしてるわね」と月。
「テンション高い!!」と星三兄弟が揃って目を丸くした。
「いや〜、最近出番少なくてさ。映えるのに、一瞬しかいられないってつらいよね〜」
虹は豪快に笑いながらも、ぽつりとこぼす。
「みんなさ、“見えた瞬間に消える”ってわかってても、それでも見たがるじゃん?
でもオレ、そういうの……ちょっとプレッシャーなんだよね」
星たちが顔を見合わせた。
「虹って、“儚い”って言われるけど……中の人はけっこうメンタルハードなんだね」
「ていうか、存在するには“雨”と“太陽”がセットって、地味に大変じゃない?」
「そう。だから毎回“出現条件”とか確認してから動いてるの。わりと天気予報ガチ勢なんだよね」
月は静かに笑った。
「たまには、何も気にせずここでぼんやりしていけば?」
虹は照れくさそうに言った。
「……そういうの、慣れてないんだけどさ。じゃあ今日は、消えずにちょっとだけ、いてもいい?」
ヒカリ荘の空に、やわらかな七色の光がかかった。
時間を忘れるような午後。
“瞬間の美しさ”は、その裏でこっそり努力している。
そんなことを、少しだけ思い出す日だった。