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第百十二話 てんびん座の秤(はかり)

星座学園ヒカリ校。昼休みの中庭で、てんびん座のてんは静かにノートを広げていた。


「議題三件。生徒会で今日中に処理すべき案件……」


彼女の周囲は、まるで結界が張られたように静かだった。真面目で冷静、完璧主義の生徒会長。それがてん、ことてんびん座の評判である。


そこへ、生徒会副会長のしし座・レオンが駆け込んできた。


「てん! 大変だ、演劇部が体育館を無断使用してる! しかもジェムとジェナが勝手に舞台を虹色に塗ってるって!」


「……それ、また?」


「また、だ!」


てんはため息ひとつ。ノートのページをめくりながら冷静に言う。


「昨日の生徒会報告書に“演劇部の舞台装飾計画未提出”の件、書いておいたわよね?」


「提出期限、今日だったな……って、あの双子絶対読んでないって!」


てんはノートをパタンと閉じ、椅子から立ち上がった。


「よし、はかりの出番ね。行きましょう、レオンくん」


──体育館では、ジェムとジェナがキラキラのペンキを持って踊っていた。


「劇のテーマは“虹の彼方へ”! 色の革命だよ、ジェナ!」


「ジェム、それ最高! 芸術にルールはいらないわ!」


「はいストップ」


てんが現れた瞬間、双子の動きがピタリと止まる。


「使用許可なし、計画未提出、塗料無断使用。ルール違反三つ。演劇部としての活動停止、一週間」


「えっ!? そんなぁ……!」


「私たち、ただ学園を明るくしたかっただけで……!」


しゅんとするふたご座に、てんは少しだけ柔らかく笑った。


「気持ちは、わかる。でも秤は、感情じゃなくてバランスを見ているの。あなたたちの輝きが、ルールの中でもっと光るように、私は止めるの」


沈黙。やがてジェムとジェナが、小さくうなずいた。


「じゃあ……ちゃんと許可取って、劇の台本出して、改めてやるよ」


「次こそ、てん会長にも観てもらいたいな!」


──翌週。


演劇部の舞台は大成功。舞台の最後、虹の布が天井からふわりと広がる。


客席で観ていたてんは、静かに手を叩いた。


(やっぱり……輝きは、ちゃんと秤にかけて導くもの)


彼女の心の中に、小さな虹がかかった気がした。

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