第百十三話「ふたりの流れる日」
ヒカリ校の昼下がり。
中庭のベンチに、ふわふわの金髪と銀髪が並んで座っていた。
リーナとうらら。うお座の双子は、いつものように静かに空を見上げていた。
「今日は……空がうすいねぇ」
「うすいね……心が透けちゃいそう」
それを遠目から見ていたビリナがつぶやいた。
「今日も詩的すぎて、話しかけづらい……」
授業の合間、ヒカル校長がふらりと通りがかった。
「やあ、詩人たち。何か悩みでも?」
リーナとうららは、揃って首をかしげた。
「悩んでるわけじゃ……ないんだけど」
「なんか……こう、流れてるだけで……」
「流れる?」
ヒカルはベンチの隣に腰を下ろした。
「うん、なんかね、最近……“ふたりでいる意味”って、考えちゃうの」
「誰かがどっちかを間違えても……気づかれないまま、終わっちゃう気がして」
ヒカルは少しだけ目を細めた。
「なるほど、それは……双子ならではの問いかもしれないね」
「わたしたち、“似てる”って言われるけど……ほんとは、ちがうの」
「朝に見る夢も違うし……昼に食べたいパンも違うし……」
「ねぇうらら、きのう何の夢みたっけ?」
「きつねの気球が、月に向かって飛んでた」
「やっぱり全然ちがう!」
ヒカルは優しく笑った。
「それでいいんだよ。違うからこそ、一緒にいる意味があるんだ。
流れていても、ふたりで流れれば、それは立派な“道”になるんだよ」
リーナとうららは、顔を見合わせて――ぱあっと笑った。
「ふたりで……流れる道かあ」
「それ、詩になるね」
「“道”という字は“首”と“しんにょう”。
どこかへ向かう“気持ち”があれば、ちゃんと“進む”んだよ」
その言葉に、双子は小さくうなずいた。
「ありがとう、ヒカル校長先生」
「わたしたち、今日もいっしょに流れてくね」
風にゆれるベンチ。
それは、ふたりだけの小さな舟のように、午後の光の中でそっと揺れていた。




